第6話 依頼達成と報告

「両手に花とは恐れ入る。どこでナンパしたんだ?」


 仕事しろよ。まずはギルドカードを提示させて入場確認するのが先だろ。

 人を見て開口一番出た言葉がそれか。

 黙ってギルドカードを差し出すと、門番の男は素直に確認してくれた。

 フレンドリーすぎるのも問題か? それとも今は入場する人がいなくて暇だからからかってきたのか。それとも恋人がいないから羨ましいのか? それに別に親しいわけでもないんだぞ。

 少女二人も無反応で無言のまま街の中に入っていく。


「とりあえず冒険者ギルドに行きましょ。助けてもらったお礼はそのあとね」


 揃ってギルドに入ると多くの視線に迎えられた。

 今まで何度もギルドには来ているが初めての経験だ。

 うん、珍しい組み合わせだったから目立ったんだろうな。そこ、別に何もないから殺気を飛ばすのはやめてもらいたい。


「それじゃ後でね」


 特に気にした様子のないルリカの一言で、場の空気が一段階悪くなったような気がする。

 目立たず地味な依頼を受けてきたのに……。


「お願いします」


 ミカルに採取してきた薬草をそのまま納品する。

 単純に一〇枚一組での採取依頼なので、それを複数組み納品するとその数だけ依頼をこなしたことになる。

 これは薬草類はポーションの材料になるため、常時依頼として出ているからだ。

 なので仮にウルフを一〇匹討伐などの依頼の場合は、三〇匹討伐しても一回分の依頼としてしか処理してくれない。もちろん討伐部位以外の魔石や素材は、その分だけの料金は支払ってくれるが。


「それでどうしてあの二人と一緒だったんですか?」


 野次馬はここにもいたか。好奇心に溢れた瞳が怪しく輝いて見える。


「あ~。薬草採取で勧められた群生地にいったんだけど、そこでウルフに追われているのに遭遇して」


「ウルフに追われていたんですか?」


 この時ミカルが驚いたのは、ルリカとクリスのペアがある程度の力量を持っていることを知っていたからだった。

 それは聞き耳を立てていた冒険者たちも同じで、不思議そうな顔でこちらを見てきた。

 そしてその疑問に応えるように、突然ギルド内が騒がしくなる。

 ルリカたちと話していたギルド員が奥の方に走っていき、しばらくしたら戻ってきた。後ろに一人の男性を連れて。

 それを見た冒険者たちは口を紡ぎ、男の動向に注意を向けている。


「もう一度説明をしてもらってもよろしいですか?」


 柔らかい物腰だが、その眼光は鋭い。

 シンと静まり返ったギルド内に、ルリカの声が響き渡る。

 ルリカの話が終わると、一転再びギルド内が騒がしくなる。

 距離的には街に近い森。そこにウルフの群れが発生した。

 特に薬草採取などに使われる初心者用の森でもあるため、注意をしないと冒険者の被害が出るかもしれない。

 男は立ち上がり指示を色々と出した。

 ギルド内で休憩していた何人かのパーティーにも参加要請をしている。

 また何人かの職員がギルドの外に向かって走っていった。

 これは他のギルドへの注意喚起と門番への連絡のためだった。


「あとはギルマスに任せて。ウルフの買取してもらおっか」


 解放されたルリカがやってきて、三人で買取カウンターに向かう。

 一緒に歩いていても、もう誰も見てこない。それほどの衝撃が、あの報告にはあったのだろう。誰もかれもが、忙しく動いている。何より一緒にいた理由を知ったのでそれで満足したのだろう。

 買取の査定は、予想通り俺の解体した素材の値段だけ悪かったとだけ言っておこう。

 最初だからあんなもんさ、という男気のある励ましが胸をうったね。

 素材による代金は半分くれた。

 三人だから三等分じゃないかと聞いたら、気にするなと言われた。

 駆け出しだから、今は貰えるものは貰っておきなさい、とのこと。

 そしてさらにお礼ということで、夜にご飯を奢ってくれるらしい。

 一度宿に戻り、装備を置いて教えてもらった宿に向かう。その際、女将さんには夜は外で食べるから要らないと伝えるのを忘れない。言っておけば、その時の分を、別の日のお昼分としてくれてタダで出してくれるからだ。

 これは配達の依頼を受けていた時に、何度かお昼を食べに宿に戻ってきていたら言われた。まとめて日数分払ったのも影響しているらしい。

 利点を見せたらまたここに泊まってくれるという、商売人としての思惑もあるようだ。たくましいことだ。

 教えて貰った宿に到着して思わず立ち止まった。

 街の中央に近いということもあって、今泊っている宿とはその構えからして違う。外壁もしっかり色が塗られていて、清潔感を出している。

 一階が食堂になっているようだけど、テーブルは整理されて並べられていて、隣同士の距離も十分とられている。混んでいても窮屈な思いをしないで飲食できそうだ。

 要件を伝えると個室に通された。

 しばらく待っていると、ルリカとクリスが来た。クリスは相も変わらずフードを被っている。


「お待たせ。料理は適当に頼んでおいたけど、何か食べたいものってある? あとは食べられないものとか」


 良く分からないから任せてみた。

 どうしても口に合わなければ、その時はその時で考えるとしよう。どうせメニューを言われても分からないんだしな。言われても分からない食材がまだまだこの世界には多い。








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