第5話 出会い

 改めて自分のとった行動を思い返し無謀だったかと考える。

 しかしあのままだったらあの二人もどうなっていたか分からなかった。

 ただ横から獲物をかっさらうような行為はトラブルの原因になるからしないようにと注意を受けたことがあった。

 これってある意味越権行為か?


「すまない」


 とりあえず謝っておいた。

 すると双剣使いはちょっと驚いた表情を浮かべて、その言葉の意味を理解したのか苦笑をもらした。


「ピンチを救ってもらったんだ。悪いなんて思わないよ」


 改めて冷静に見ると、それが女性だと気づいた。

 肩口に切りそろえられた髪は銀髪で、赤い瞳は興味深そうにこちらを見ている。

 視線が少し顔の下に誘導されそうになるのは、男なら仕方がないはず。

 出来るだけ見ないように、頑張ったはず。

 杖を装備した冒険者も少女で、フードの中から現れた顔は幼く見える。風に流れる金髪のツインテールが、髪型も相まって幼さをさらに印象付ける。体も小柄で、将来に期待したいところだ!


「助かりました」


 囁くような声がして、ペコリとお辞儀をされた。


「この場合、取り分とかってどうなるんだ? 冒険者になったばかりで、詳しいルールを知らないんだ」


 ちょっと驚いた表情をされた。何故に?


「ウルフって、初心者が倒すには結構大変なんだよ。それをあんなに簡単に倒してたのに?」


「こう見えて冒険者になってまだ十日も経ってないな。ここに来たのも薬草の素材採集の依頼で来たわけだし。倒せたのは武器が良かったんだと思う」


 抵抗なく剣がウルフの身体に入っていった。いい武器をありがとう、おやっさん。

 その時の肉の感触を思い出し、手が震えだす。魔物とはいえ、生き物を殺したんだという実感とともに。


「大丈夫?」


 気づいたら目の前にツインテールが揺れていた。

 視線を落とすと少女の視線とぶつかった。

 慌てて一歩下がると、動揺を誤魔化すように大丈夫アピールをした。


「これってどうするんだ? ウルフの解体なんてしたことないぞ」


 資料には目を通した。必要素材と部位もわかる。

 解体方法も一応頭の中には入っているはず。ただ魔物とはいえ、それを解体すると吐くかもしれない。

 冷静になると、ちょっと血を見るのもまだ慣れていなくて辛い。


「もちろん解体するよ。お金を捨てるようなものだしね。なんだったら教えるよ?」


 見透かされたのか、意地悪い笑みを浮かべている。

 せっかくだし教わろうと思う。

 それによって今後自分で解体出来るかどうかがわかるはず!

 改めてお互い自己紹介をした。

 双剣使いの名はルリカ。杖の少女は魔法使いで、クリスと名乗った。

 遠慮しているのか、警戒しているのか、一歩下がっている。けど時々何も考えないで勢いで行動する時があるようだ。さっき接近したのも心配が警戒を上回ったためらしい。とは、ルリカ談。


「クリスは少し休憩してて。まだ魔力が回復してないでしょ?」


 ルリカの言葉に素直に従い、クリスは腰を下ろして息を整えはじめた。

 そして思い出したように慌てた様子でフードを被りなおした。


「逃げる時に結構無茶させちゃったから。本当は森の中にも、倒したウルフが何匹かいるんだけどね。今回は諦めるしかないんだ」


 解体の仕方を教わりながら、時々世間話をした。

 二人はコンビの冒険者で、ランクはD。今回は森の中にあるキラービーのハチミツの回収依頼を受けてきたのだが、その途中でウルフの群れに遭遇したとのこと。

 魔法でかく乱して群れの本体からは逃げることが出来たが、群れから外れた個体が何匹かいて追跡されたため、逃げながら個別に撃退していたが、魔力がきれたためここまで引き連れてきてしまったと言った。

 開けた空間の方が対処するのが大変じゃないか聞いてみたら、クリスの魔力が回復するまで頑張る予定だったと。

 それに森の中の方が、ウルフを撃退するのは大変と教えて貰った。

 ルリカの腕なら森の中でも一対一なら十分対処できるが、同時に襲われると無理らしい。なんでも木を巧みに使い、攻撃してくるらしい。


「ハチミツの依頼は失敗かな。近くにウルフの群れがいるんじゃ取りに行けないよ。あ~、でもギルドに報告したらペナルティなしになるかなぁ。あと少しでCランクになれるのに」


 なんでもウルフの群れを対処するのは、規模にもよるけどランクB案件になる場合があるらしい。群れが出来ると、稀に特殊個体が誕生し、それがいると難易度が一気に引きあがるとのこと。


「解体の仕方はこんな感じかな」


 俺頑張った。吐かなかったよ。

 出来栄えは聞くな。誰だってはじめてはあるさ。

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