第18話
王都の郊外に位置する、巨大な『カンパニー』の製造プラント。
それに隣接する高層建築物の屋上に、アナはいる。
「パパの仇………」
隣接する、といっても、その距離は1.2キロ離れている。
アナは屋上のふちに腹ばいに寝そべり、1.5メートルもの巨大なアンチ・マテリアル・ライフルを構えている。
アナ・バティスタ。
わずか、齢10の少女。
彼女は父親を殺され、復讐の狂気に取り憑かれている。
彼女は何もないところから銃を生み出すことのできる『魔法使い』であり、更には放った銃弾が必ず当たる未来を引き寄せる『百発百中』の第二能力を持っている。
父を殺した、憎き仇。
そいつが、今このカンパニーのプラントにいることは分かっている。
呼吸を整える。スコープを除き、ずっと同じ姿勢で集中を高めたまま微動だにしない。
ヤツが、建物から出てきた。またと無い、絶好のチャンスだ。
ガチリ。ボトルを引く。スダン、という大きな発射音。
アンチ・マテリアル・ライフルの銃口からマズルフラッシュが煌めき、強烈なリコイルが肩にかかる。
それを、歯を食いしばり耐える。
スコープ越しの標的は、もんどりうって無様に吹き飛ぶ。
命中だ。
初めて、人間を撃った。
脳が痺れ、あまりの快感に胸が震える。
「!!」
だが──アイツは、あの憎い仇は、死んでいない。
なんてしぶとい奴だ。
アナは歯軋りし、次なる弾丸を装填する。
「チッ───」
舌打ち。
血みどろのアイツに、白衣の青年が駆け寄り、抱き上げる。
どうやら若い医者のようだ。
あの医者ごと撃ち抜けば、意識のないアイツを確実に殺せる。
しかし、仇以外の人間を撃つことはできない。
だって、パパは『せいぎのまほう使い』だったのだから。
憎き仇が離れていく。ここから追いかけても、間に合わないだろう。
アナは、あまりの悔しさに腹這いの体勢のまま、拳で地面を何度も何度も殴りつける。
◆
「ここは───」
ゆっくりと目を開ける。腹部に鋭い痛み。
アンチ・マテリアル・ライフルで撃たれたのだ。痛みで済んでいるだけ相当に幸運だろう。
俺は、まだ生きている。
目の前に見えたのは、白い天井。どうやらベッドの上に寝かされているようだ。
個室のようで、周りには誰もいない。
「ここは、僕の知り合いの病院だよ」
俺が寝ているベッドの隣には、あのお節介の若いドクターが座っていた。
彼が、また俺のことを助けてくれたのか。
「キメラ手術はしない主義の宗教に入ってるならスマンな。腸が破けて死ぬとこだったから、勝手にバイオ置換させてもらった」
腹に手をやる。大きな手術痕。
破れた腸を、丸ごと人工の臓器に置換したのか。とんでもない大手術だっただろう。
どこまでお人好しなんだ、この青年は。
「……治療費を払うには、カネがない」
「いいって、そんなの……ってオイ、何をしてるんだ?!」
俺は、全身に刺さっている点滴を引き抜く。むくりと立ち上がる。
身体が弱っており、立つだけでもやっとだ。
「ドクター、俺は何日間寝ていた?」
「3日ほどだよ。まだ鎮静が解けたばかりだ。手術の傷だって塞がっていない。絶対安静の状態だって、分かるだろ?」
俺は、静止するドクターの横にまで足を進める。
「ドクター、俺の持っていた容器……脳髄の入った筒はどこにある?」
「あ、ああ……それなら、ここに……」
ドクターは、鬼気迫るだろう俺の様子に気圧されたようで。大切に紙袋に入れて保管してくれた脳髄を俺に返してくれる。
ダフネの、脳。半分は白くなり、組織が崩壊してしまっている。
あと、4分の1で全てが集まる。
「あと一人、殺さなきゃならない」
俺は、ドクターの静止を振り切り、病室の出口にまでゆっくりと足を進める。
「俺なんかを治療してくれて、本当に感謝している。ありがとう」
「お前……本当に死ぬところだったんだぞ! どうしてそこまで拘るんだ!?」
俺は、引き止めるドクターの手を振り解く。
病院から出ると、右手に力場を展開。ベレッタM93R召喚。俺の最も愛した銃。
俺はまだ戦えるようだ。
「おいっ!」
背後から聞こえるドクターの怒号を尻目に、ベレッタM93Rで病室の窓をぶち破り外に飛び出る。そのまま肩から地面まで落ちると、衝撃を逃すために転がる。
俺は、最後の脳を持つ、麻薬王コルネオのもとへと向かう。そこには、俺を狙撃した魔法使いの刺客も護衛に居るだろう。
終わりが近い。
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