第17話
わたしの名前は、アナ。
アナ・バティスタ。
わたしのパパは、まほう使いです。
わるい人をやっつけるしごとをしています。
パパはとってもつよくて、かっこよくて、一度もまけたことがない、せいぎのヒーローです。
わたしは、そんなパパのことが大好きです。
ある日、わたしは、どうしてもパパがおしごとをしている所が見たくなってしまいました。
パパにおしごとをおねがいした、メガネの人にそれを言うと、メガネの人はとくべつに、パパのおしごとを見せてくれると言ってくれました。
わたしは、まやくおう?さんの車でこっそりとパパを追いかけて『白のとう』というところにつれて行ってもらいました。
ぼうえんきょうで、パパのかつやくを、遠くから見ていました。
わるい人は、とってもこわい顔で、パパと同じ、まほう使いの人でした。保安官さんたちにひどいことをしていました。
大きな音と、くさいにおい。
わたしはとってもこわくて、体がふるえて、気持ちがわるくなっていました。
そこに、パパがやってきました。
パパは、とってもかっこよくて、つよくて、わたしの想像したとおりのヒーローでした。
わるいまほう使いの人を、もう少しでやっつけれそうでした。
わたしはそれを、がんばれ、がんばれと、おうえんしました。
けど、その時がやってきます。
わるいまほう使いに、パパはまけてしまいました。
パパの体から、血が出ています。
パパ。どうして。パパ。パパ。死なないで。死なないで。
パパはたおれて、そのまま動かなくなりました。
あんまりにもつらくって、苦しくて、かなしくて、わたしは大きな声でなきました。
ないて、ないて、なきました。
そうしたら、手のひらがとても熱くなりました。
気がつくと、わたしは、黒い鉄をにぎりしめていました。
これは、銃。
わたしにもパパと同じ、そして、あの男と同じの、まほう使いの力が、めざめていました。
◆
「こりゃあ、スゴイ」
『白の塔』で殺戮が起きてから一ヶ月ほど。
あの魔法使いのチンピラは姿を見せなかった。
恐らくは、白耳たちとの戦いで負った傷を癒すため、どこかに潜伏しているのだろう。
その間に、アナは『完成』した。
「アナ・バティスタ。君は最高の戦士になれる。あらゆる勢力が、君の力を欲しがるだろう」
齢70は超えているだろう、顔に大きな傷がある醜悪な容姿の老人。
彼こそが都の裏社会に君臨する麻薬王。
デルト・コルネオだ。
「次のトレーニングがしたい……」
アナの表情は失われ、最低限の言葉しか口にしなくなった。
長く伸ばした黒髪に、10歳の中でも小柄な方だろう、ほっそりとした、華奢な体躯。
ぱっと見ただけでは、彼女が大の大人と戦うことなど想像もつかないだろう。
だがその目は復讐に燃え、爛々と輝いている。
アナの周囲には、人間のシルエットを模した形の板が並べられ、その全ての急所部分に穴が空き、残骸が散らばっている。
アナから標的までの距離は、一番遠いもので2キロ以上も離れたものまである。
すべて、アナが呼び出したバレットM82A1によって打ち抜いたものだ。
驚くべき狙撃能力だ。
魔法使いには、掌に特定の物体を『どこか違う世界』から呼び出す能力がある。
そして、その中には『どこか違う世界』へ強制的に干渉できる、更なる進化をするものがいる。
あのチンピラは、どうやら分析によると未来予知に近い能力を持っているようだ。
対してアナが持つのは、『絶対命中』の能力。
アナが撃った銃弾が命中するという未来以外の可能性を、全て消し去ってしまうのだ。
つまり───百発百中。
だが、アナはまだ10歳で、しかも女だ。
ハンドガンやアサルトライフルでは、反動も大きく、銃そのものも重い。マトモに撃つことすら難しいだろう。
故に、地面に置いて使用できる、長距離狙撃が最もアナの能力を活かせる有効な方法だ。
彼女が呼び出せる銃がアンチ・マテリアル・ライフル、バレットM82A1であったのは、最も相性の良い組み合わせだったと言えるだろう。
「まだ、パパの仇はどこにいるか分からないの?」
ぞっとするほど、冷たい声。10歳の少女のものとは思えない。
ズドン。標的を撃ち抜く。リロード。
ズドン。また撃ち抜く。
その鬼気迫る様子に、彼女に武器の扱いを教えているマフィアたちも恐怖を覚えた。
「早く。早く殺したい。早く、早く」
アナは、病的なまでにトレーニングを積む。
全ては、父親の敵討ちのために。
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