第16話


 ウェザビーMkV。

 俺が呼び出すことが出来る銃の中で、今まで一度も実際に呼び出すことの出来なかったもの。

 巨象や鯨ですらも一撃で倒す、この世で最強の銃。


 全長は1メートル、重量は5キロほどで、口径も7.6ミリ。見た目はごく普通のボトルアクションライフルだ。

 この銃で特筆すべきは、使用する弾丸。

 ただでさえ強力なライフル弾の火薬量を増やしマグナム化した、.460ウェザビーマグナムという専用の弾丸を使用する。

 その初速は790メートル毎秒にも達する。音速の2倍以上の速度だ。

 この弾丸の貫通力の前では、筋肉の壁など役に立たず、あらゆるものを貫通する。


 俺はウェザビーMkVを構え、撃つ。

 猛烈な発射音と、反動。

 発射された弾丸は、目の前にいた合成獣を貫通。そのまま直進、ガラスをぶち破り、白衣の研究者を吹き飛ばした。


 一発で大型の合成獣の分厚い身体を貫通し、強化ガラスを突き破り、そのまま人間を殺傷したのだ。

 研究者の男は、叫び声すら上げる暇もない。即死だ。


「あ……え?」


 ロッソは何が起きたか分からないようで、呆気に取られている。

 俺は、ウェザビーMkVを掲げるように持ちながら立ち上がる。


「GRRRRRRAAAA!!」


 俺が死んでいなかったことにようやく気付いた合成獣たちが、俺に襲い掛かる。

 俺はその合成獣たちを、ウェザビーMkVで1匹ずつ順番に撃ち殺す。

 どのような高度なバイオミネラリゼーションを用いたとしても、生体由来の物質でこの銃弾を防ぐのは不可能だ。

 火と鉄と油の時代。この銃は、一撃で犀や鯨を仕留めていたのだ。


 撃つ。殺す。撃つ。殺す。撃つ。殺す。

 例え4トンを超える巨大な合成獣だろうと、一撃で沈黙する。


「え……は?」


 俺は一発撃つごとに一歩ずつロッソのいる『安全圏』へ歩みを進め、ついには強化ガラスの前にまで到達する。

 俺は、穴が開きひび割れた強化ガラスにコルトM79グレネードを打ち込む。

 爆発し、ガラスに大きな穴が開く。


「う、うわぁ!」


 爆発の衝撃で、ロッソの傍らのテーブルはひっくり返り、ワインボトルもグラスも中身をこぼしながら宙へ舞う。ロッソもソファから転倒し、尻餅をつく。

 俺はそんなロッソのもとへ近づくと、ベレッタM93Rで肩を撃ち抜く。


「ひぎぃ!」


 バネのようにロッソの身体が跳ね上がり、傷口から噴水のように出血。

 肩には心臓から出た太い動脈が走っている。そこを傷つけられれば、数分で失血死するだろう。

 血の海に沈むロッソの額にベレッタM93Rを突きつける。


「な、なんなんだよお前はぁ……62匹の合成獣だぞ……62匹の合成獣だぞ……1000人の兵隊相手にだって全滅させられるんだぞ……20億の金がかかってるんだぞ……」


 ロッソはバイオインプラントによって施された整形が崩れ、元の醜い顔が現れている。

 目が忙しなく動き、子供のように泣きじゃくる。


「それをお前一人で……お前はなんなんだよ……お前は悪魔か?」


 俺は、ひっくり返ったテーブルの傍らに落ちている容器を拾い上げ、ダフネの脳髄を奪う。脳の右後ろ半分の部分だ。

 残るダフネの脳は、あと一つ。


「あ、あのオンナが悪いんだ! あのオンナのことは、殺すしかなかったんだよ! 助けてくれ、カネなら幾らでも払う!」


 銃声。ロッソを殺した。

 周囲を見る。

 まだ生きている合成獣は何匹もいたが、それらは指令を出していた人間が両方死んだことで命令が無くなり、何もない所へ視線を迷わせ、棒立ちとなっていた。

 きっとこいつらは、数日のうちに自壊するだろう。こんな無茶な構造の生き物が、永く生存できるはずが無い。

 俺は、そいつらを無視して『カンパニー』を後にしようとした。



 瞬間───俺の全身が最大の警鐘を鳴らす。



 どろりと時間感覚が引き伸ばされる。平行世界に干渉する能力で得た、未来視が発動。俺の数秒後の未来の可能性たちが、目の前に映し出される。

 俺は、その中から最善の未来を選択できるよう動かなければならない。

 しかし、すべての未来で、俺は銃弾を浴びて倒れていた。


 始めに衝撃。次に熱を感じると、最後に激痛。

 俺は何処かからの狙撃を受け、無様に吹き飛ばされる。

 狙撃。そう、狙撃だ。これは、銃による攻撃───新たな、魔法使いの敵。


 俺は全力で斜め後ろに跳び、どうにかして受ける場所から急所を逸らす。俺は未来視によって得た選択の中から、一番マシなものを選ぶことが出来た。それでも、即死しなかったのは僥倖というしかない。

 腹には巨大な穴が開き、そこから大量の出血。


 はるか遠方、窓の先には少女がバレットM82A1を構えているのが見えた。

 俺の意識は、そこで途切れた。

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