第9話
俺が指揮官を殺したことで、白耳たちは一気に士気を失い、その目は恐怖に支配されている。
しかし、ここにいる白耳を全部殺さなければ、白の塔の最上階にいる長官までは届かない。
俺は、M4A1カービンを構える。
「待ってくれ」
すると、かなり遠方から声がかかる。
白耳たちをかき分け現れたのは、年配の白耳の男。落ち着きがあり、只者ではないことを感じさせる。
「魔法使い。お前の要求はコレか?」
年配の白耳はそう言うと、背後から縛られた人物を前へ蹴り出す。
それは、間違いない白耳───保安官たちの長官、その人であった。
「貴様……何をする! こんなことをしてタダで済むと思っているのか?!」
老人といって良い年齢の長官は、四肢を拘束され地面に芋虫のように転がされながら、唾を飛ばし喚き続けている。
「……この男が、王都の麻薬組織やカンパニーと癒着し、麻薬を製造している事実や、麻薬取引を見逃す代わりに、多額の裏金を得ていたことが分かった」
壮年の白耳は、眉根を寄せながら絞り出すように告発した。
「……アンタは?」
俺は、まだ完全に信用はできず、銃を構えたまま尋ねる。
「私は、先ほどお前が殺した男の上司。強襲班の隊長だ」
隊長を名乗る壮年の白耳は、侮蔑の視線を長官へ向けながら続ける。
「先ほどお前が起こした風俗街でのギャング虐殺。その引き金となった娼婦の謀殺。それを計画したのはこいつだと、証拠を集めていたところだった」
「や、やめろ……どうして私が死なないといけないんだ! あの女が自分のことを『魔法使い』だなんて吹聴したのが悪いんじゃないか!」
『魔法使い』の駆除が目的なら、脳を奪う必要などない。記憶を見られても問題は無いはずだ。
俺は、長官の指へ一発。
「どうして、ダフネの脳を奪った?」
「いぎぃぃぃぃ! た、助けてくれ! 私はハメられたんだ! わ、私はエリートなんだ! あんな場末の娼婦と不倫していたなどと知られれば、私の地位はおしまいだ! 私には妻も子供もいるんだ!」
長官は血走った目で喚き続ける。
「あの娼婦との不倫の事実を広められたくなければ従えと! あの『カンパニー』の科学者に唆されて!」
俺はベレッタM93Rを撃つ。二本目の指が飛ぶ。
「ひ、ひぃぃぃぃいいい!!」
俺は、教習班隊長と名乗った男の顔を見る。眉根を寄せてはいるが、微動だにする気配はない。
「……いいのか? 例えこいつが殺人や裏工作に加担する糞野郎だったとしても、私刑で殺すのはお前たちの理念に反することだろ」
俺の疑問に、隊長はゆっくりと首を振る。
「我々がこいつを裁くなら、我々にとって不利益な事実を民や王都に知られることになる。我々は志願者の自治によって成り立つ治安維持組織だ。我々の長官は、正義の象徴でなければならない」
なるほどな、と俺は納得した。
それを本当に正義と呼ぶべきかは分からないが、俺にとっては好都合だ。
俺は、這いずって逃げようとする長官の後頭部へ三点バーストを放つ。命中し、頭が破裂。
あと、二人。
ざわめきが広がる白耳たちを、隊長と名乗った男は腕を広げて制する。
「貴様のことは見逃す。何処へでも行くがいい。しかし、有能な部下を殺した貴様を、私は許したわけではない」
俺は、ただ正義を信じて戦い、俺に殺された者たちの亡骸を見る。
「くだらない」
俺は、血煙が舞う荒野へと足を向けた。
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