第8話
魔法使い。
高次元量子干渉体。
量子もつれを意図的に発生させ、テレポーテーションを起こす人間。
しかし、その呼び出せる物体は、なぜか銃器に限られている。別のものを呼び出せたものは確認されていない。
世界でも歴史上100人程度しかいない、希少な能力者。
彼らは、数百年前に断絶した火と油と鉄の時代の知識に通じるものが多いという。
彼、ナーヴ・バティスタも、愛する妻を殺される前までは学者であった。しかし、あるとき過去の世界から銃を呼び出す力に目覚め、そのせいで最愛の妻を殺された。
彼は悪を憎む。
他のものを私利私欲によって殺す人間は、皆粛清の対象だ。
彼にはそれを実行する力がある。ならば、だれがそれを静止することができようか。
◆
タララララララッ。
乾いた銃声が絶えず聞こえる。
バティスタは、建物から建物へ飛び移りながら、常に自分の有利な位置どりをキープする。
幸いなことは、バティスタの戦法は白耳たちにとっても予測不能のものであったことだ。市街地を移動しながら戦う俺たちに介入しようとすると、流れ弾で無駄な死人を増やす。白耳は俺たちの戦いを手を拱いて遠巻きに包囲するしかない。
俺は、しつこく食い下がっていたフェリペをようやく戦闘不能としたので、次なる手に出ることにする。
コルトM97を召喚。
装填するのは、焼夷弾だ
俺は木造だろう建物へ、次々とグレネード弾を打ち込む。すると一気に住宅から火が上がる。
辺りは猛烈な熱に包まれ、無数の火の粉が降り注ぐ。
「チッ、あの野郎、むちゃくちゃしやがる!」
バティスタは、飛び移つろうとしたベランダが燃え落ちたため、アンカーが外れ無様な着地をする。
いくら無限に火器を召喚できる魔法使いといえど、炎への恐怖心を完全に拭い去ることはできない。バティスタはどんどんと燃え広がる火に、顔を青ざめる。
燃える建物の中に居続けては命がない。バティスタは、周囲を見渡すが───周りの建物は全て、すでに火事になってしまっている。
バティスタは意を決して、地面に向けて飛び降りる。しかし、そこには俺が待ち構えている。俺はバティスタへ銃を向ける。
しかしバティスタは、飛び降りると見せかけて、地面に着く直前に一気に跳ね上がる。
どうやら、今までいたベランダの手すりにアンカーをかけ、俺の反撃を予想して一気に引き上げたようだ。
なんという勝負勘だろうか。
「ぐっ……!」
だが、俺の着地を狙ったM4A1カービンの弾丸の雨を完全に躱し切ったわけではない。脇腹を負傷したようだ。
バティスタは痛みで空中の姿勢が乱れ、地面に投げ出される。
俺は、今度こそトドメを刺そうとバティスタへ走り寄る。
「うおおお!」
しかし、それを槍を持った白耳たちが阻む。バティスタが負傷し、流れ弾の可能性が減ったので突っ込んできたようだ。
周りは恐怖の対象である火の海だというのに、彼らも驚嘆する執念だ。
フルプレートの白耳たちがまた俺のことを包囲しようとする。彼らの手には、先程の蜂の巣。
さっきは油断したが今度は抜かりない。俺はコルトM97を集団に向けて発射。
爆裂、悲鳴。
蜂の巣ごと、フルプレートの白耳を10人ほど殺した。
俺は、散り散りになって隊列を乱す白耳たちをM4A1カービンで順番に殺す。
俺の目の前には、死体が積み重なる。
右斜め上方から白耳たちの死体を跳び越え、高速で飛来する影。俺は咄嗟に銃口を
向ける。
それは、バティスタではなく、彼のゴムにより投げ飛ばされた白耳の死体。
バティスタは、スリングショットの容量で死体を飛ばしたのだ。
目くらまし。
いつバティスタが飛び出して狙ってくるか分からないというこの状況で、この目くらましに反応してしまわないやつはいないだろう。俺は右に銃を向けて致命的な隙を作ることとなる。
「死ね!」
バティスタは、死体の影、俺の死角となった左側から回りこんで来る。
バティスタの手には、オートマチックピストルであるモーゼルC96。新たに召喚したのだろう。
その瞬間。
俺は後ろを向いたまま、左手に召喚しておいたをベレッタM93Rを、右の脇の下に通し、振り返らずに撃つ。
もちろんこんな体勢ではまともに狙いなどつけられない。だが、それでいい。
この弾は、必ず当たる。
無慈悲な3点バーストの弾丸がバティスタの胸椎を破壊し、胸を貫通。
バティスタの胸は血がにじみ、口からはとめどなく吐血する。
「マジかよ」
バティスタは、それを信じられないといった表情で、呆然と眺める。
ずるずると、立ち姿勢を維持できなくなり、左右にブレながら地面に膝をつく。
「そうか……聞いたことが、あるぜ……魔法使いの中には、量子ねじれの効果で別の能力を持ってるやつがいるって……
黒い煙と火の粉が舞い続けている。空は、抜けるような快晴。乾いた建物は、次々と燃え広がる。
「お前……魔法使いとして『次』に進んでるのか?」
胸を押さえながら、バティスタ───同じ魔法使いが、数少ない同族が尋ねる。
「……俺には、数秒先の未来が見える」
俺は、誰にも話したことのない秘密を明かす。
そう、俺は量子干渉によって、並行世界の自分、あり得たかもしれない未来を見ることができる。俺にはどんな奇襲も通じない。
「未来予知? クソッ……バケモノが。お前それだけ強かったら何でも好きなように選べるだろう? 金も、地位も、女だって、何だって好きに奪えるだろ。なんでそうしないんだ? 訳わかんねぇ───」
バティスタは、膝立ちの格好からさらに崩れ落ちる。自慢に頬をつき、目は白く濁っていく。
「すまねぇな、パパ負けちまったよ」
俺は、それを見届けると、屍の山となった甲冑たちに埋もれるようになっている指揮官のもとへ向かう。
白耳の指揮官の男は、片足を失った重症にも関わらず、驚異的な生命力で這いずるように逃げようとしていた。
「やめろ! 殺すな! 殺さないでくれ!」
副隊長と呼ばれた男はそう叫び、射線をを遮るように自分と銃の間に手を掲げる。
俺の銃弾はその掌ごと貫通。彼の頭を破裂させる。
次に、先ほど腹を撃たれ戦闘不能となった若き白耳……フェリペの元へ向かう。
フェリペは喘ぐように短い呼吸を繰り返し、すでに虫の息のようだった。
「うう……イヤだ……死にたくない……母さん……」
頭に二発。殺した。
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