第6話
新たに現れた若い白耳は、驚異的な身体能力で俺の懐にまで接近する。ほとんど密着するような距離だ。
二つの細長い板が二重の螺旋を描くような奇妙な形状をした、2mほどの棒の真ん中を持ち、武器としている。
若い白耳は、手首の回転だけでその奇妙な棒を巧みに操り、俺の顎を跳ね上げようとする。それを間一髪、顎を逸らして躱したものの、跳ね上がった棒の先端を今度は手首の回転で振り下ろす。俺は今度は躱しきれず、肩を強打する。
「……っ!」
肩の付け根を強打され、銃を握る手が一瞬痺れる。
若い白耳は肩を打ち据えた反動でくるりと半回転、棒の下半分で脇腹を打とうとする。俺は、その一撃を辛うじて躱す。
若い白耳は、良質なキメラ手術を全身に受けているようだ。驚くべき身体能力だ。
よく見ると、足の関節も1つではなく3つに増やしてある。
ここまで接近されては、銃の優位性はほぼ失われている。しかし、いくらあの若い白耳の身体能力が高いと言っても、四肢を棒で打たれたぐらいで死ぬことはないが、こちらは一撃必殺。銃弾がどこかにかすれば戦闘不能にすることができるだろう。俺は重く小回りの効かないM4A1カービンを捨てると、掌に力場を展開。コルトSAAを生みだそうとする。
「ハイヤーッ!」
若い白耳は、それを許さない。
踏み込みながらの鋭い突き。それを、前進しながら何度も連続して放つ。俺はそれをなんとか躱すが、一瞬の間も与えない見事な連続攻撃に、銃を呼び出すことは出来なかった。
突きを繰り出しながら、若い白耳はまたしても密着するほどの距離にまで詰める。
先ほどと同じく、手首の回転を使ったアゴへの一撃───と見せかけて、本命は別。俺が棒を避けると、こめかみへのハイキックが眼前まで迫っていた。
俺は、仕方なくそれを右腕で防御する。重い蹴りだ。先ほど自爆で負った怪我から血がまた吹き出す。
しかし、さすがの高い身体能力であっても、この連続攻撃の後は大勢が崩れたようで、一瞬隙が生まれる。
その瞬間、左手に力場を展開。コルトSAAが呼び出される。右腕は今ガードをしているので、クイックドロウは出来ないが、通常射撃で十分だ。
頭を狙い一発。若い白耳は、驚異的な反射神経で身体を逸らす。命中したが手応えが浅い。肩に当たったようだ。
「ぐ、うっ!」
血を流しながら倒れる若い白耳へ向けて、コルトSAAの残り5発を一気に撃ち込む。
しかし、その間に別の白耳が割り込んできたため、厄介な棒使いには命中しなかった。割り込んできた白耳は、即死。
「新入りにばかり任せていられないぞ! やれ、突っ込め!」
棒使いに手間取っている間に増援が来たようで、俺の周りはいつの間にか20人ほどの白耳に囲まれている。
チッと舌を鳴らすと、俺は弾切れになったコルトSAAを捨て、右手にバレッタM93Rを呼びだす。
槍を構えて突進してくる白耳を、1人ずつ順番に撃ち殺す。
防具を貫通され、1人ずつ弾けるように倒れる。
ぞくり、と鳥肌。俺の目には、一瞬後に矢によって全身を貫かれた自分が見える。
姿勢を低くし、地面を転がるように回避。今まで俺がいた場所へ大量の矢が撃ち込まれる。
「ちくしょう、なんて勘のいい野郎だ!」
周囲の住宅から俺を狙っている弓兵を視認。1人ずつ撃ち殺していく。
「ハイヤーッ!」
先ほどの棒使いが、三たび猛烈な勢いで接近。
肩の動脈を損傷したようで、簡単に止血はしてあるが、傷口からはたらたらと血が滴っている。
「お前、お前は許さない……! 白耳の名において、ここで処刑する……!」
棒使いの白耳は、ゼェゼェと荒い息を吐きながら言う。
仲間を殺され、自らも大きな負傷をしたため、冷静さを欠いているようだ。奇襲こそ多少驚いたが、先ほどのように隙のない連続技を使ってこないのであれば、コルトSAAの速射で対応できる。俺は新たに銃を呼び出そうとした。
その時である。
身の毛のよだつ感覚。全身の神経がすべて最大限のアラームを鳴らす。
ダラララララララッ。
とんでもない弾幕。
全力で射線をきり、転がるように距離を離す。
弾幕。
そう、弾幕だ。
攻撃は、金属の弾丸───銃弾だ。
建物の影に身を隠しつつ、素早く起き上がり、新たな襲撃者の方を見る。
「やぁどうも。私はバティスタ」
髭に白いスーツの紳士。
バティスタと名乗ったそいつは、芝居掛かった口調で、恭しく礼をした。
その手にあるのは、H&K MP7。
2キロ以下の軽量でありながら、一分間に1000発もの弾を出すサブマシンガン。市街地などの強襲で効果を発揮する銃だ。
彼も───魔法使い。
「アンタには恨みはないが……死んでもらうぜ」
そう言うとバティスタは、MP7を乱射しながら、油断なく俺が隠れる建物へと近づいてくる。
白耳たちは、新たな乱入者に混乱しているようで、俺たちの動きを注視しているようだった。
魔法使い。俺の他の魔法使いに出会うのは、初めてのことだ。
おおかた、俺が殺すつもりのカンパニーの重役か、都の麻薬王のどちらかに金で雇われた刺客だろう。とても厄介な相手だ。
「やれやれ。隠れたまま出てくるつもりはないようだね」
バティスタが銃を持っていない方の手をかざすと、そこからアンカーのようなものが先端についた、紐状のものが高速で射出される。
アンカーは周囲の建物の二階に刺さると……恐るべき速度でバティスタを巻き上げ始める。
そのままバティスタは、引っ張られるままにヨーヨーのごとく宙を舞う。
バティスタは、そのままMP7を乱射。予想外の動きに一瞬対応が遅れた俺の頭上から、銃弾の雨が降り注ぐ。
「ぐ、ああっ!」
運良く、何発かは掠ったものの命中はしなかった。激しい痛み。このまま同じ場所にいたら、あっという間に殺される。
俺は、痛みを堪えながら走り、バティスタに射線を通さないようにする。
アレは───強力なゴムを体内で生成するキメラか。あの速度で移動しながら、銃を乱射されれば相当に厄介だ。
「ハイ……ヤーッ!!」
無様に地面を転がりながらバティスタから射線を逸らせていると、背後から若い白耳の男が棒を袈裟に振り下ろしてくる。
俺は、それを足の裏で受け止める。動きが止まると危ない。バティスタに向けて威嚇射撃をすると、そのまま路地裏へ逃げ込んだ。
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