見るべき程の事は見つ

 年末から年始にかけて、かぜで往生した。

 年のせいで、体が弱っている。

 それは私だけでなく、付き合いのある同年代の人も同じようだ。

 不惑を過ぎたらいけない。


 ところで、むかし、平知盛(たいらのとももり)という人がいた。

 清盛の四男で、もっとも愛された息子だったらしい。

 都に住み、当時、最先端であった宋(中国)の文物に触れつつも、平家の軍事面での責任者を務めていた。文化の素晴らしさも、いくさのむごたらしさも知っている人だった。

 そういう人が、壇ノ浦で平家の滅亡を目の当たりにしながら言ったのが、タイトルの言葉である。

「生きていて、わざわざ見るほどの価値のあるものはあらかた見てしまったよ」

 知盛はそういう言いながら、入水自殺した。

 享年は34。不惑を迎える前だった。


 話を私に戻すと、不惑を過ぎて、知盛の年は超えてしまったが、まだまだ、世の中には、未知のものがたくさんあるはずである。涙を流すほどおいしい料理、人生観を一変させる景色や書籍・映画など。

 しかし、しかしだ。

 どうもさいきん、日々の生活を送っていると、この知盛の「見るべき程の事は見つ」という言葉がついて回ってくることが増えた。

 あたらしいことに挑戦する意欲がないだけでなく、好きだった本やゲームにもあまり手が伸びない。暇潰しにスマートフォンをながめていると、「見るべき程の事は見つ」という言葉が頭に思い浮かんでくる。

 「終わり」が始まっている気がする。

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