【書評】「庵野秀明 スキゾ・エヴァンゲリオン」(太田出版)を読む
たしか、新劇場版の映画公開に合わせて、アマゾンで安く売っていたので買った一冊。
それを今ごろ読んだ。
最後のポエムが、エヴァ旋風が生じていた時代の雰囲気をよくもわるくも思い出させる。
〇『パロディは批判的な視点も入ってくるんだけど、オマージュっていうとある種、信仰的なところがあるじゃないですか。愛情告白ですよね』(13ページ)
庵野秀明へのインタビュー中に竹熊健太郎が発した言葉。
パロディとオマージュのちがいについては、人によって言っていることがちがう。これはわかりやすい比較のように思う。
〇『竹熊 でも、オリジナルなんて概念は人類が生み出した幻想であって、最初からそんなものはないんだってことで開き直ってやる方法がありますね』(103ページ)
この『最初から』というのは、私には新鮮な響きをもった言葉であった。
私たちには『オリジナル』はなかった。では、なにがあったのだろうか。なにがあって、いまの文化があるのだろうか。
人類における共通意識の具現化のようなものが、文化の発端であったか。現在の文化からさかのぼって、その「共通意識」を探り当ててみたい気もする。
〇『庵野 僕らは結局コラージュしかできないと思うのですよ。それは仕方がない。オリジナルが存在するとしたら、僕の人生しかない。僕の人生は僕しか持っていない。それがオリジナルだから、フィルムに持って行くことが僕が作れるオリジナリティなんです。それ以外はすべて模造といっても否定はできない』(48ページ)
この考えには基本的に賛同する。エヴァンゲリオンという作品は、庵野秀明の書いた私小説と見ることもできるが、極端な話をすれば、すべての創作というのは私小説なのかもしれない。
しかし、現在において(原初の世界においても)、個人にオリジナリティなどというものがあるのかというのは、疑問といえば、疑問である。模造といえば、模造である。DNAでいえば、母と父の模造であり、母語という言葉が指すように、言葉は他人の模造である。
〇『庵野 基本的に「エヴァ」は僕の人生をフィルムに引き写しているだけなんで、僕が生きているわけだから、物語は終わらない。それでも番組を終わらせなければいけない。そうなったら、ストーリーが必要になってくる』(40ページ)
この言葉は、長編小説を書く者にとって、重要であり、かつ重い言葉だと思う。
書きたい何かがまずあり、それを表現するためにストーリーがある小説もあれば、そうでないものもある。しかし、長編小説は、エヴァのようなアプローチで挑むのがよいかもしれない。
〇『竹熊 風呂敷を畳むって難しいですよね。
庵野 きれいに畳む必要はないと思うんですよ。広げた風呂敷をどうするか。方法は三種類ある。畳むのと、ちぎるのと、あとは捨ててしまうのと』(54ページ)
現代の消費者は、この『きれいに畳む』こと、形にこだわり過ぎているように思う。庵野さんがダウンした理由のひとつは、この消費者との意識、価値観のちがいのように思う。
私は、庵野さんの言うとおりだと思う。長編作品は人生と同じである。基本的に、きれいな終わりなどというものはない。
そもそも、終わりなんてものはないと考えている人が、きれいな畳み方に気を配るわけがなかったわけである。その点を考慮に入れていない消費者の攻撃は的外れといえば、的外れであった。
〇『竹熊 昔、「幕末太陽伝」という映画がありましたけど・・・・・・。
庵野 ええ、あれをやりたかったですよ。あれが近いと思う。川島雄三の気持ちはわかる気がします。
竹熊 最初のプランでは、ラストシーンでフランキー堺が撮影所から出ていってそのまま現代の街の中を逃げていく予定だったんですよね。でも、それはさすがに映画会社から拒否された。
庵野 今村正平が文句を言ったって話ですね。「イカンなあ。馬鹿もんが、なぜそれを許さん」って』(54ページ)
新エヴァのラストシーンについて、「幕末太陽伝」へのオマージュは広く言及されていたと思うけれど、旧エヴァのラストでやりたかったことを、新エヴァで明確にやったということか。
旧エヴァのラストは、テレビ版も劇場版も評判がわるいが、私は大好きである。私の創作観に強い影響を与えている。
私のエヴァとのファースト・コンタクトは、25話のオリジナル放送である。制作側の事情は知らないが、私は、創作というのは、ここまで自由にやっていいんだと思い、放送が終わってもしばらく動けなかった。話はまったくわからなかったが、わからなくてもよい場合があることを知った。それは大きな発見であった。
〇『竹熊 クスリやって実感したのは、人間っていろんなもの(常識)にとらわれていて、とらわれることによって自分を守っているんだなってことですね』(107ページ)
人間の精神を具現化すれば、昆虫、カブトムシなのかもしれない。それはエヴァの言葉でいえば、ATフィールドか。
その殻を叩くと、夏目漱石ではないが、悲しい音がするのだろう。
〇『鶴巻 僕は、やはり一筋縄ではいかない世界っていうか、わかっていることもあればわかってないこともあるという、そういう世界がやりたかった』(181ページ)
これは共感する欲求である。私もそういう小説を書いてみたい。
定めたテーマをいろいろな方向から文字(ストーリー)にして、長編小説の形にし、結局、なにもわからなかったよと。そういうものを私は書きたい。
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