【書評】[新訳]ガリア戦記・上下〈普及版〉
ユリウス・カエサル作、中倉玄喜訳のガリア戦記を読んだ。
別の訳だが、ガリア戦記の通読はこれで二度目である。
ガリア戦記は、小林秀雄が絶賛したことで知られている、歴史上の大英傑が書き残した報告書であり、非常に価値があるのだが、読みやすいとは言えないので、他人にはなかなか勧めづらい。
どうしても読みたいのならば、塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読んでから、手に取るといい。
〇解説
とは言え、古代ローマになじみのない読者への配慮はなされており、冒頭にとても長い解説がある。
その内容を踏まえて読めば、本文も理解できる構成となっている。
解説は、古代ローマ全般ではなく、ガリア戦記を読み解くうえで必要最小限の知識に話がまとめられているが、この文章もなかなかの名文で、『知り尽くした材料を以ってする感傷と空想とを交えぬ営々たる労働、これはまた大詩人の仕事の原理でもある』などと含蓄のあることも言っている。
以下、本文の気になった箇所に触れていく。
〇侵略者としてのカエサル
ガリア戦記のおもしろいところは、どうも、カエサル自身が、自分が侵略者である旨をよくよく承知しており、それが文章から垣間見られる点である。
ガリア戦記というのは、いまのヨーロッパ人の祖先であるガリア人やゲルマン人の「自由」を賭けた争いに関する書物である。
なお、ゲルマン人の中のスエビ族に関する記述を読んでいると、モンゴル人を思い出す。
『穀物はわずかしか食べず、おもに乳と肉で生活していて、狩りがさかんである』
『自分たちのところで産まれた、貧弱で不格好な馬を、よく訓練して、どんな働きでもできるようにしている』)
〇元ネタ
中倉さんのガリア戦記は、いま、私が書いている「スラザーラ内乱記注解」という物語の元ネタのひとつである。
ガリア戦記にはときおり、中倉さんの注釈が入るのだが、それがカエサルのボケ(うそやごまかし)に対する中倉さんのツッコミになっている箇所があり、それが架空の回想録に対して注釈をつけるというアイデアに結びついた。
〇ニワトリを食べない
ガリア戦記には博物誌的なところがあり、各部族の風習が記述されており、なかなかおもしろい(それだけでなく、学術上、きわめて重要らしい)。
とくに、現在の英国に住んでいたブリタンニー人が、ニワトリを食べずに、娯楽のためにのみ飼っていたというのはふしぎな話だ(本当かいな?)。
〇戦争は運
戦争は運。
大事なことらしく、カエサルはガリア戦記の中で二回言っている。
実際、そうなのだろうな。
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