【書評】「風の歌を聴け」(村上春樹/講談社)
読む本がないとお悩みのみなさま、この読書家青切が、いい作家を紹介してあげましょう。
いや、私もさいきん、はじめて読んだ作家で、みなさん、ご存じかどうか心配なのですが、村上春樹と言ってね、あ、やめて、石を投げるのはやめて、痛いからぁ。
というわけで、下の書評に惹かれて、生まれて初めて村上春樹を読んだ。
・「作品論:名作小説たちの宇宙」(八寸悟さん) https://kakuyomu.jp/works/16817330648698831711/episodes/16817330649193103864
私には関係のない作家だと思い、読まずに来たが、「風の歌を聴け」はとてもおもしろかった。書評を読んですぐに買い、そのまま読みはじめた。手に入れてから五時間で読み終えるなど、読むのが遅い私にしては非常にめずらしいことである。
私の大好きな高橋源一郎の「さようなら、ギャングたち」に通じるものがあった。両作とも1960年代を扱っており、発表年度も近い(「風の歌を聴け」が1979年、「さようなら、ギャングたち」が1982年)。
「風の歌を聴け」は1960年代を舞台としており、現在とはだいぶ環境がちがう。
飲酒運転や空き缶を海に捨てる描写は、当時と今では、大きく読み手の捉え方が異なるだろう。とにかく、いつでもどこでも煙草を吸っている。たとえば、レコードショップの中とか。個人情報の管理もがばがばである。
村上の文章のくせはちらほらとうわさだけは聞いていたが、読んでみると実際にそうで、会話が何だかヘンテコリンである。人工的というか、なんというか。思わず笑ってしまう(一部爆笑)、違和感のある会話や、やりすぎに思える比喩が散見される。だが、それがいい。読んでいて楽しくなる。そんな文章を読むのは久しぶりだった。
おもしろくて含蓄のあるセリフがいくつもあるのだが、ここで紹介するわけにもいかないので、各自、読んで楽しんでもらいたい。
書き手としては、『彼女は歯を見せずに得意そうに笑ってから』という表現は使ってみたいと思った。
こういうヘンテコリンな作家がよく読まれて、高く評価もされていると、日本文学も捨てたものではないと、あまり日本の小説を読まない私としては、たのもしく思えた(視点のおかしい箇所が数か所あったのに対しては、書き手として妙な安心感をおぼえた)。
こういう小説が許されるのならば、みんな、もっと好きに書けばいいように思う。
私は読んでいて、村上春樹から「僕は好きに書いた。君らも好きに書け」と言われている気がした。
最後になるが、小説を書くときの「お作法」に、会話文の最後に句点はつけないという謎のルールがある。しかし、「風の歌を聴け」では、『虫唾が走る。』と句点がつけられているので、句点をつける人はクレームを受けたときに、反証の材料としてみてはいかがかな。権威は活用しなければね。
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