【書評】「辺境メシ ヤバそうだから食べてみた」

 作者の高野秀行さんが実際に口にした、日本を含む世界各地のヤバい食べ物にまつわるエッセイ集。文春文庫から出ている。

 一つひとつのエッセイは短く、文章も軽いので、酒のつまみにちょうどいい本であった。

 以下に、読んで知ったこと、考えたことを書いていく。


・ナレズシ

 ナレズシと言えば、滋賀県の鮒鮨が知られているが、平安時代に編成された「延喜式」によると、猪や鹿のナレズシもあったらしい。要は、本来、肉に塩と米を混ぜて発酵させたものが、ナレズシと呼ばれるものだったということだ。

 そういう鮨の歴史を知ると、現在のすし屋で牛肉のすしが出てくるのも不思議な話ではないような気がする。

 また、江戸時代の近江(滋賀県)は、牛肉のみそ漬けが名物として知られていたが、鮒鮨の影響を受けて、つくられ始めたのかもしれないなどと妄想した。


・ふぐの卵巣漬け

 猛毒で知られる、ふぐの卵巣は、複雑な工程を三年かけて、ようやく食べられるようになる。

 高野さんが『他の食べ物がたくさんあるわけだし、どうしてそこまでフグの卵巣に執念を燃やしたものかわからない』(180ページ)と書かれているが、そのとおりだと思う。

『だって、技術が確立するまでに何人が犠牲になったかわからないじゃないか。ほんの少しでも毒がのこっていればアウトなのだ』(180ページ)

 フグを食べる文化は、考えれば考えるほど、なぞが深まる。


・クジラ

『鯨も種類によっては、サンマと鯛ほどに味がちがう』(189ページ)

 部位によってもちがうだろう。

 しかし、この言葉は、あんがい、奥の深いことばのように思う。人間という存在に当てはめて考えてみると。


・ヤギとヒツジ

 干支のヒツジは、ヤギのことだと言う人がいて、一理あるように思うのだが、逆にヤギと書かれている動物がヒツジの場合もあるようだ。

 ヒツジは人間がヤギを家畜化した生き物だが(そのため、人間が毛を刈ってやらないと病気になる)、見た目や味もけっこうちがうように思えるのに、どうして混同が起きるのだろうか。

 アジアの言語の中には、ヒツジとヤギを区別していないものもありそうだ。

 まあ、ひとくくりにできると言えば、できるか。個人的に、すこし違和感はのこるが。


・昔の中国は、カネよりもコネ

 経済的に遅れている、もしくは弱い国が、自分たちの社会を守るとき、カネよりコネを重視するのは、防衛策としてありなように思う。


・口噛み酒

『口嚙み酒は儀式から生まれた。他の酒が生活の中で自然に生まれたと想像するなら、そっちの方が原始的であり、口嚙み酒はもっと文明的な酒ではなかろうか』(387ページ)

 口噛み酒は原始的な酒のイメージがあるけれど、実はそうではなく(つくるのが大変)、ふつうに穀物なり果物を発酵させてつくったほうが、手間がかからなく、原始的な作り方と言われれば、その通りだと私は思った。

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