珈琲ショップ

 四時になり、待ち合わせ場所へと幸恵と向かった、駅前にあるチェーン展開する珈琲ショップだ。この別世界でも、同じようにこのチェーン店が、こんな田舎の町にまで進出していることは、同じ過程の上に成り立っているようだ。

創業者とでも言うのか、この事業に関わった人物が同じように存在し、同じような思考をすれば、それも当然と言えるのだろう。

ただし、微妙な差は確かにある。一見同じように見えても、お店のロゴが僅かに違ったのだ。これはロゴを考えたイラストレーターの、ちょっとした感情の違いや、筆の進み具合程度で変化しうるのだろう。

けれども、そんな僅かな違いで変化が生み出されるとしたら、ママが言っていたように『変化が重なれば、戦争さえ起こり得る』との言葉が真実味を帯びてきた。

所謂『一羽の蝶』だ。この話は、遠い過去に戻ったとして、その時に仮に小さな虫でさえ誤って殺してしまえば、数千年後には全く違う世界に変わる。と言う内容だ。

穏やかな水面に一滴でも水滴をたらせば、最初は小さな波紋であっても、広がるにつれ大きく広範囲に及ぶということだ。

しかし、それらを気にしだすと、全てが違うように見えるから不思議だ。普段から注意してみていなかったからだろうか。


「おまたせ」席でカフェオレに口を付けた時、三人が現れた。

「あれ?お母さんは?」母親が居ないことに気付き、父親に向かって幸恵が尋ねた。

「うん、怖がってしまってね。家から出ようとしないんだ」幸恵の父は気弱な口調で答えた。それに引き換え、パパとママは至って普通に見えた。

「今気が付いたんだけど……」そう言って私はカフェオレのカップを見せた。

「うん?これが?」パパは見せられたカップを手に取り聞いてきた。

「このロゴって同じ?」

「うーん、どうだろう、あまり気にしたことないからな」

「じゃ、あそこの角の紳士服のお店、建物はピンクだった?」

「ごめん、そこまで覚えてないよ」パパがそう言うと、

「私たちも何か買ってくるわ、何がいい?」とママが二人に聞いた。

「僕は普通のコーヒーで」

「私も同じで結構です」二人の注文を聞いて、ママはスタスタとカウンターへと向かった。そんな平然とした態度に、私は少々焦りを感じた。ここが別世界だと証明するために呼んだのに、まるで相手にされていないように感じたからだ。

しかし、この小さな町でも、差異があるのであれば、都会に出たらもっと多くの違いがあるはずだとも思えた。そこで私は一筋の光を見た。


「ねぇ、おじいちゃんに電話してみて」私はパパに言った。

「え?別にいいけど」パパは不思議そうな顔で答えた。おじいちゃんは大阪に住んでいる。ここよりも大都会だ。昨夜、幸恵の父親が弟に電話を掛けたが、特におかしなところはなかったと言っていた。それは、地震情報などから考えても、村と元の世界は繋がっていると考えられる。それを違う視点から見れば、この町は、この世界の他とも繋がっているはずだと思ったからだ。


「特に変わったことはないようだよ。みんな元気だってさ」電話を終えてパパが答えた。一応は、この世界のおじいちゃんも健在のようだ。

「地震の事は何か言ってた?」と私は尋ねた。

「あ、聞いてないや。もう一回電話しようか?」

「いえ、いいわ」今の段階では、おじいちゃんもこちらの世界の住人だと考えたほうが無難であり、注意する必要があったからだ。やはり電話だけでは比べる対象に乏しいのかもしれない。

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