失われたピース

 翌日、親たちは四人で集まっていくことになっていた。私たちは普段通りに学校へ向かい、親たちとは帰りに待ち合わせることになった。

学校での待遇は昨日と変わってはいない。今日も『別世界』に来たらしい。そしてランチタイムに浅田さんが私に訊ねてた。


「昨日はどうだった?」

「え?何のこと?」

「図書館で調べものがあるって」

「あ、あれね」私は最初の日の繰り返しを見ている気になった。

「そう、何を調べてたの?」

「うん、平行世界やパラレルワールドについて」私は正直に答えた。頭の良い浅田さんの知恵も借りられるかとも思ったのだ。まさか私たちが体験している真っ最中だとは思うまい。その上、下手な誤魔化しも浅田さんに後ろめたさを感じたからだ。

「難しい話ね、理論上だけでしょうけど」浅田さんはそう言って、卵焼きを口に運んだ。浅田さんの冷静な態度とは違い、加田さんは興味深々のようで、あれこれと尋ねてきては、

「なんか夢があるわ」と目を輝かせていた。

「違う世界の自分にも会ってみたいな」と言ったのは意外にも浅田さんだった。

「でも、会ったらヤバイんでしょ?」塩谷さんは浅田さんの顔を覗き込んだ。

「どちらかが消滅するかもって話だけど」加田さんは、そんな怖い言葉をさらりと言い放った。あくまでも仮定の話だからであろうが、実際にこの問題に巻き込まれている私には、背筋の凍る話だ。この世界の自分と会う可能性が少しでもあるからだ。

村ごと入れ替わったと言うのも、あくまでも私たちの仮説に過ぎない。もしも出会ってしまったら……。と考えていると、

「それはドッペルゲンガーでしょ?今の話とは違うと思うけど」と、浅田さんはさりげなく答えた。

「そっか、同じ次元の自分と出会うとやばいけど、平行世界とかの他の次元の話ならば問題ないのか」と塩谷さんも素直に納得したようだ。同次元の自分は完全な自分であるが、別次元の自分は完全に一致してはいないからと言うのが、浅田さんの説明だった。


「私が会いたいと言うのは、どうやって生きてきて、どんな思い出があるのか、聞いてみたいと言うこと。興味あるな」と浅田さんが返した。そして意味ありげに私の顔を見ていた。浅田さんの言う通り、確かに違いはある。ここの世界の私は勉強が出来て、浅田さんたちとも仲が良い人物だ。この世界の私は、今の私とは違う生き方をしてきたからこそ、この差が生まれたのだろう。

「そうなれば、趣味も違うかもね」と私が言うと、

「そうそう、それ、気になるな」と浅田さんは笑った。


「なんか上手く話しを合わせてたわね」ランチが済んで、トイレに駆け込んだ幸恵が感心したように言った。

「四時には親たちと待ち合わせだけど、何をしたら信じてくれるかな」

「信じるもなにも、私はまだ半信半疑だけどね」と幸恵は笑った。

「私もいまだに信じられない気持ちで一杯だけど、確かにここは私たちの知ってる世界じゃないよ。色々なことが違い過ぎる」

「うん、わかってる。でも、嫌いにはなれないな」

「それはそうだけど」と、私は言葉を濁した。幸恵は、浅田さんグループの事を言っているのだろう。私たちの知る浅田さん達とは違うかも知れないが、基本的な人格等は同じはずである。その浅田さん達も、いざ話してみると良い人間だと分かったからだ。それに、帰れたとしたら、また空気のような存在にならざるを得ないのである。


「でもさ、私たちってこの世界ではどんな存在なんだろう」幸恵は素朴な疑問を投げかけてきた。まず第一に、ここに住んでいると言うことは、私は小さいときに虐めにあったことは、この世界の私にも起きていることだ。

幸恵がここにいるのも、同じ出来事があったからだろう。では、何故、こちらの世界の私たちは勉強は出来るのだろうか?という疑問が湧いてくる。それがこの世界が存在する理由に思えたのだ。どの時点で『お茶をこぼした』時があったのだろうか。

その時点から、頭の良い私と悪い私とに分かれた気がした。例えそれが分かったとしても、今更変えることなど出来はしないが、それが鍵にも思えた。


「ねえ、この町はこの世界と続いているのは確かだよね?」

「うん、地震情報が出てないってことは、この町で得られる情報から考えても、そうと言っていいと思う」

「それが失われたパズルのピースだね」幸恵はそこまで言うと考えこんでしまった。この世界でしか得られない情報を、親たちに確認させれば納得はしそうだ。

それをどうやって見つけ証明するかを、考えなくてはいけない。

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