友達なの?

「そういえば、私なにか昨日調べものしてた?」食事も終わりかけた時、不意に思い出された疑問をパパに訊ねてみた。

「うーん、勉強でかい?」

「じゃなかったら?」

「どうだろう。ママに聞いてみたら?」どうやらパパには見当が付かないらしい。ママはいつものごとく、翻訳の区切りが悪いらしく、食卓には着いていなかった。夕食時にはよくあることだ。

「うん、わかった。ママが来たら聞いてみる」

「それよりどうだ?トマト旨いだろう」パパ自慢のトマトは、形は悪いが真っ赤に熟していてフルーツのように甘かった。

「うん。今年もよく出来たね」と返事をしつつも、パパは本当にここで満足しているのだろうかと、気になって仕方がなかった。

今のパパは主夫だ。畑と炊事、洗濯、掃除などが主な日課だ。それで幸せなのだろうか?と考えずにはいられなかった。傍目には、満足そうな笑顔を浮かべているパパは、本心ではどう思っているのだろうか。


「あー疲れた」ママも一段落したようで、食卓に姿を現した。

「お疲れさん」パパはそう言うと台所に向かい、ママの茶碗にご飯を盛り始めた。

しっかりと役割分担は決まっているのである。

「少な目でお願い。直ぐに続きをやるから」

「わかった。大変そうだな」

「締め切りが近いからね」ママは肩を回しながら答えた。

「そうか。頑張れよ。あと、美紀が聞きたいことがあるって」

「なに?」ママは振り向き私に訊ねた。

「うん、私、昨日何か調べものしてた?」

「昨日ね。なにも言ってなかったわよ。ご飯食べてお風呂に入って、テレビ見てから寝たでしょ?でも宿題してるのは見てないわよ」と笑った。

「だよね。私の記憶の通りだわ。それから、宿題はちゃんとやりました」

「それがどうしたの?自分の行動を聞くなんて変な子ね」とママは私を睨みつけた。どちらにしろ、図書館や、その手の場所に行った記憶がなかったこと。

その上、前日に浅田さんと会話した記憶もないこと。そして気になるのは、町では地震が起きていないことが大きな疑問を生んでいた。

食事を終え、パパと二人でテレビを見ている間も、ずっとそのことを考え続けていた。本当ならば、すぐにでも部屋に戻って、地震について調べたいところだが、ママが仕事に戻ったせいで私まで居なくなれば、パパ一人が居間に残されることになる。それがなんだか可哀そうで、見るつもりのないテレビを、ただ眺めていた。

二時間ほどして『今日は終わり』とママが仕事を終えて居間に来たため、私はそそくさと部屋に引き上げた。パソコンで調べた結果、確かに早朝には地震があり、町でも震度5弱を観測していた。知らないはず、気が付かないはずのない地震だ。その時、机の上の携帯が鳴った。幸恵だ。


『聞いてよ。町じゃ誰も地震が起きたの知らないんだって』

「うん、私もさっきパパから聞いたわ。飼料を買いに行ったけど、知らなかったって」

『おかしいよね、それって』

「うん、今も調べていたんだけど、確かに地震はあったのよ」私はパソコンの画面を見ながら、幸恵に答えた。

『なんだろう。町だけ別世界みたいじゃん』

「それそれ、私も考えたの。学校も別世界だったでしょ」

『あ……』

「仮によ、町が別世界だとして、住民も別世界の人間と考えれば、みんなの態度も納得できると思わない?」と、私は頭に浮かんだ一つの仮定を話した。

『別世界では、私たちは友達ってこと?』幸恵の言葉は、浅田さんたちの事を指しているとすぐに分かった。

「そう仮定すれば、筋は合ってると思うんだけどね」

『う~ん。理屈はわかるんだけど、そんなSFっぽいことが本当にあるのかな』

「ともかく、昨日も同じ態度だったら、友達として話は合わせるわよ」

『それには同意する』と、幸恵も快く同意してくれた。

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