くたくたの帰り道
「じゃあ、また明日。ばいばい」浅田さんの笑顔に、かろうじて手を振り返す事だけは出来た。きっと顔は引きつっていたと思う。まさに必死と言うのが当てはまりそうな一日を終え、私と幸恵は帰りのバスに乗り込んだ。
「あー、疲れた」座席にドカッと腰を下ろした幸恵が言葉を絞り出した。まるで獣の唸り声のようだ。それに対し、私は無言を貫いた。返す言葉が見つからなのだ。
「なんだったんだろう。あれ」幸恵は更にため息交じりに呟いた。
「さっぱりわかんない」今日一日の出来事を思い返しても、この言葉しか見つからない。まさかこんなに苦労する日になろうとは、夢にも思わなかった。
「ドッキリじゃないよね」幸恵が思い出したように声を出した。
「可能性としてはアリだけど、浅田さんたちがする?」
「だよね。あの才女たちがするとは思えないし、第一に、何の利益もない」幸恵その言葉の後、二人は黙り込んでしまった。仮にドッキリだったとしても、浅田さんたちの言動はとても自然だった。大地を悠然と流れる川のように、一切の澱みがなかった。それが恐怖以外の感情を持った理由かもしれない。そのことからも、映画のような宇宙人説は早々に私の中から消えていた。
駅前でバスを乗り継いでからも、私たちはいつものような会話が出来ずにいた。精神的に酷く疲れたのも理由だが、理解できない出来事に思考が占領されていたのだろう。そろそろ到着するというころ、幸恵が重い口を開いた。
「ともかく、明日の様子を見てみよう。明日も同じなら……」
「そうだね。今はどうしたらいいのかわかんないし」私と幸恵は小さく頷き合った。
「どうだった?今日は」夕食時にパパに聞かれたが、正直に答えることが出来なかった。親にしてみれば、クラスメートとランチを食べたと言えば、嬉しく思うはずだ。私がいくらそれらが異様なことだと言っても、信じはしないだろう。それどころか異様の理由を尋ねられ、普段の生活を疑われかねない。
「特に何もないわよ。普段通りよ」私はそう答えるだけに留めた。学校では空気のように扱われているなどと、今までに話したことがないからだ。
過去に虐めにあった事実があるからこそ、そんな話を聞けば、パパはおもしろくは思わないだろう。今にして思えば、パパの方がショックが大きかったように見える。
「そうか、地震のことは何か言ってたかい?」パパに言われて、その時に初めて気が付いた。『学校ではその話題は一度も出なかった』と言うことを。地震自体が珍しくはなくなっていることもあるだろうが、誰一人として話題にしなかったのも妙に思えた。
「話題にはでなかったけど……」
「そうか……」パパはそう言うと不思議そうに首を傾けた。
「どうしたの?」私がそう聞くと、パパは箸を置いて真面目な顔になり、
「うん、今日の昼前に、飼料を買いに町まで行ったんだが、誰も地震を知らないんだ」と答えた。
「え?どういうこと?」
「揺れてないって、いうんだよ」
「気が付かなかったってことじゃなくて?」
「何人かに聞いたけど、誰一人知らないんだ」
「でも、幸恵の家も揺れたし、テレビでも言ってたでしょ」
「そうなんだ。おかしいなと思って、戻ってから村の人に聞いてみたところ、みんなは揺れたって言ってたよ」
「ここが揺れて町が揺れてないってあり得ないよね?」
「そう思うんだが……」パパの言葉はそこで途切れた。これじゃまるで『別世界』じゃん。と思ったとき、学校での出来事が思い起こされた。学校での出来事も、まさに『別世界』での出来事のように感じたからだ。
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