違和感
やがてバスは平坦な道を走るようになり、エンジンの重い音が唸りを鎮めた。
町の様子も見えてきたが、大した被害がなかったようで、いつもと同じような日常が繰り返されているように見えた。町とは言っても地方の小さい町で、都会の街とは大きく異なる。商店で開店準備をする人々や通勤の人々でさえ、慌ただしさもなくのんびりと歩いている。ところが、乗り換えのため駅前のバス停に並んでいるとき、ふと、目に映る景色に不自然さを感じた。
「ねえ、あのビルって白くなかった?」私は正面に並んだビルを見て言った。ビルと言っても、三階建ての小さなものだが、商店街の中心的建物である。
「え?どれどれ?」
「うん、あの洋服屋のビル」と私は薄ピンクのビルを指さした。
「え?そうだっけ?紳士服のお店なんて興味ないからよく見てなかった」
「そう……、勘違いかな」私はそう答えるしかなかった。幸恵と同じく興味もなかったし、そこで買い物をしたこともなかったからだ。
ただ、普段視界に収まる景色が、僅かに違うように感じただけだ。『絶対に違う』と言い張るだけの記憶もなかった。けれども、よくよく見回してみると、他にも違和感を感じる場所が幾つかあった。
「う~ん、私変なのかな」
「どうしたのよ」
「あそこも違うような気がするんだけど……」
「まだそんなこと考えてたんだ。どれどれ」そう言うと幸恵は、私の視線の先を眼を細めて覗き見た。
「特におかしなところはないと思うけどね」幸恵にはどこがどう違うのかもわかっていないようだが、私もそれらをはっきりと指摘することはできなかった。
看板の大きさや店の名前、それらに何となく違和感を覚えただけだった。言い換えれば数日で変更できる違いでもあり、『可笑しなところはないわよ』と言われれば、『そうなんだ』と納得できる範囲である。
ただ、見慣れた景色のはずが、不自然に見えて仕方がなかった。まるで間違い探しをしているようだったが、答えはどこにも示されてはいなかった。
バス停には同じ高校の生徒も並び始めた。けれども誰一人として、そんな違和感など感じていないように友達と会話したり、本を読んだり、スマホをいじったりしていた。
幸恵の話題はアイドルグループの話に変わっていたが、その内容はほとんど耳には届いては居なかった。自分の意思だけが拒否反応を起こしているように感じたが『やっぱり錯覚かな』と無理矢理に結論を出し、やってきたバスに乗り込んだ。
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