最終章 You Only Live Twice 25

素早く引き金を四度しぼり、装填されているロケットを全弾発射する。


もちろん、一発ごとに角度を変えて着弾範囲を変化させた。


オリジナルのM202がそうであるように、RL4は使い捨てではない。


映画などで用いられるときはそのまま廃棄しているが、四発をまとめたロケットを再装填することで再使用が可能だ。


俺は空間収納から新たなロケットを顕現し、RL4に再装填する。


因みに、RL4は四発撃てるロケットランチャーだからそう名づけた。いつもながら安易なネーミングだが、俺やクリスだけが把握できればいいので文句は受けつけない。このあたりは医薬品に名づけられる商品名と同じで、どのような効果がある銃器かがすぐにわかればいいのである。


再び照準を感覚で合わせて四連射した。


ライフルや拳銃などと違い、ロケットランチャーはそれほど的をしぼる必要はない。効果範囲が広い上に、飛行する悪魔たちは密集する傾向にあるからだ。


こういった傾向も奴らのおごりである。


分散して的を絞らせないのは元の世界ではあたりまえのことなのだが、飛び道具で広範囲を攻撃できるものなどこの世界では限られていた。


さらにいえば、広範囲への攻撃魔法は奴らの障壁で簡単に無効化されたりもする。


こういった条件も重なり、悪魔たちを一網打尽にするために元の世界の軍事兵器を使うことは非常に理にかなっているといえよう。


さらに新たなロケットを装填する。


さすがに悪魔たちはバラけだしたが、距離が近くなっているため当てることはそれほど難しくはない。


RL4の初速は114m/秒である。音速の三分の一のスピードではあるが、悪魔はこちらに向かって飛行しており距離も既に100mに満たない。さらにいえば、奴らは魔法障壁をピンポイントではなく、体を円で包むように展開しているようだった。


そこにロケット弾を撃ち込めば、着弾ポイントはずらされにくいのである。転移でも使えば回避できそうなものだが、そこは未知の武器での攻撃を受けてまだパニック状態となっているのだろう。


だから普段から対抗できる相手がいない強者は崩しやすいのだ。


これもテトリアに使った手段と同じく、初見殺しというやつである。


俺はRL4を収納し、HG-01に持ち替えた。


悪魔の回復力は異常ともいえるスピードだ。


それで立て直しを計られる前に殲滅してしまわなければならない。




RL4で体力を削ぎ切った悪魔を殲滅するのにそれほど時間はかからなかった。


二丁のHG-01による応射もあるが、こちらには心強い味方もいる。


特にマルガレーテは俺以上に何かの鬱憤を晴らすような戦いぶりを見せ、まるで鬼神の如く振舞っていた。


うん、相変わらず怖い。


デレるとかわいいのだが、イマイチ何を考えているかわからないのである。


ツンデレというわけではないのだろうが、理知的に振る舞うときと、闘志というか感情を攻撃で表現しているときの乖離が激しかった。


「いや~、マルガレーテは相変わらずいい動きをするな。」


自分がいた範囲の敵を蹴散らしたアッシュが傍に来てそう言った。


「彼女とは模擬戦はしたのか?」


「いや、まだだな。」


「だったらアドバイスだ。人が近づき難いオーラを醸し出しているときが狙い目だぞ。戦闘力が向上しているときだからな。」


「お、マジか?今度、そういうときに模擬戦を申し込んでみるわ。」


よし、これでマルガレーテのご機嫌が斜めのときはアッシュが防波堤になってくれるだろう。


アッシュなら、簡単に屍として踏み越えられることはないはずだ。


「···相変わらずなのはタイガも同じね。」


サキナも近くまで来て話しかけてきた。


悪魔たちはもう数えるほどしか残っていない。


俺はAMR-01で一番距離のある悪魔二体を狙撃する。


「どういう意味だ?」


悪魔に着弾し、上半身を吹き飛ばしたのを確認してからサキナにたずねる。


「女性の機微に疎いってことよ。」


サキナは軽くため息を吐きながらそう言った。


傍にいたフェリやパティも同じようにため息を吐く。


なんだろう。


居心地が悪い。


俺はアッシュを見た。


目が合うと、アッシュはフッと笑いながらこう言った。


「もっと闘争心を燃やして戦いに備えろってことだよ。」


悟ったように言うアッシュだが、周りの反応を見る限り違うと思う。


サキナもフェリもパティも眉間にシワをよせてアッシュを見ていた。


その表情を見て、「違うわボケ」と無言で主張している気がするのは俺だけだろうか。


少なくともアッシュはそんなふうには思っていないように見える。


戦闘だけを見据えた鈍感野郎め。


そう思って女性陣に視線を移すと、今度は俺の方を見て同じ表情をしているのに気づく。


···あれ、もしかして俺もアッシュと同類に見られているのか?




さて、戦闘時の殺伐とした雰囲気よりも、こういったゆるい感じの方が精神衛生上は良いと思える。


しかし、マルガレーテやファフにしてみれば、自分たちはまだ戦っているのに何をしているのかというところだろう。


戻って来た二人の様子をうかがってみる。


ファフはあまり気にしていないようだが、マルガレーテは少し不機嫌そうに見えた。


むにっ。


俺はマルガレーテの頬を両掌で挟み込みほぐしてみる。


「ふぁいはさま···ふぁにを···。」


怒られるかと思いつつも、コミユニケーションの一環で行ってみた。


「疲れているだろうから労おうと思って。」


俺は笑顔を見せながらそう言う。


他の女性陣に機微に疎いと思われているようだからふれあいを大事にしてみたのだ。


これくらいならセクハラなどとは言われないだろう。


「···セクハラだ。」


ええ···。


パティがボヤくようにつぶやくのが聞こえてきた。


マジか···ヤバいか?


そう思ってマルガレーテを見ると、その瞳は笑っているように思える。


「···嫌か?」


いちおう聞いてみた。


「ふぉんでもありまふぇん。ふぁいがさまのねひらひをかんひまふぅ。」


何と言っているかイマイチわからなかった。


ただ、怒ってはいないようだ。


「私も労って欲しいのだけれど。」


すぐ傍でサキナがそう言った。


マルガレーテからかすかな殺気が漂う。


なぜこの二人はこうなのだろうか。


相性が悪いのか何かわからないが、もう少し仲良くしてもらいたいものだ。




「連絡がついたぞ。」


アッシュが通信により大公との連絡を試みてくれた。


多忙かと思っていたが、LIVE配信が功を奏したのかすぐにつながったそうだ。


「王都ではどのような反応をしているんだ?」


「結論からいえば、テトリアの下劣さとビルシュとの関係性が明らかになったことで、様々な憶測や物議に及んでいるらしい。それはこの国だけではなく、近隣諸国全般がそうだといえるようだな。」


「まあ、そうだろうな。」


「少なくとも、おまえへの不信感はある程度払拭されたと見ていいようだ。」


意識を失っていたのは虚偽だったのかと新たな物議を呼ぶかとも思ったが、そこはあまり気にしなくてもいいようだ。


「ああ···あと、陛下と大公、それにサキナの親父さんから問い合わせだ。タイガは男色だったりするのかだとさ。」


···男色というのは男が好きなのかということだ。


テトリアの物言いは死してもなお迷惑をかけてくれる。


いい加減にして欲しいものだ。




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