最終章 You Only Live Twice 24
事故とはいえ、フェリの胸を触って···というか、抱きかかえたのだからガン掴みしていた···ので気まずい。
いや、けっして慎ましいからといって気づかなかったわけじゃないんだ。
ちゃんとその温かさ、やわらかさは感じた。
ただ、そんな余裕がなかったと主張したい。
「·····················。」
恥じらうフェリの傍らで、サキナが俺をジト目で見ていた。
「···何か?」
「以前に同じようなことがあったなと思って。」
「···あれも事故だ。」
サキナと初めて出会ったとき、確かに似たようなことをした。
ただ、あれも事故だ。
「ふ~ん。」
「何だよ?」
「めちゃくちゃ揉まれた気がするんだけれど。」
「あのときは手の感覚がなくなっていたからな。」
「···もしかして、マルガレーテにも同じことをしたのかな?」
「いや、それはないな。」
マルガレーテにはもっと酷いことをした記憶がある。
ただ、あれがあったから今仲間でいられる···と思いたい。いや、もしかしたら本当はめちゃくちゃ恨まれているかもしれないな。
さっきの遠距離からの投擲はやはり俺を狙ったものなのかもしれない。
遠い目をしているとまたサキナにジト目で見られた。
「何か?」
「ん~、何も。今はまだいい。」
「今は?」
「落ち着いたらいろいろと話したいことがあるのよ。それはたぶん、他の人も同じだと思うけど。」
何となく重たい話だろうなとは思ったが、ビルシュの件が片付けば問題ないだろう。
「そうだな。わかっ···。」
返答するタイミングで嫌な気配を感じた。
ビッグリップでテトリアを消した場所から邪悪なものが漂っている。
視線をやると、そこに漆黒に近い紫色の何かが浮いていた。
徐々に色濃くなっていくそれは、一箇所に集まりだして顔のようなものを形作っていく。
「···ゆ···許さ···ゆる、ゆる、ユル···ない···。」
地の底から響くような重苦しい声。
奴だ。
テトリアはまだ完全に消えていなかった。
わずかに残った思念によるものだろうか。何か暴走するような気配を感じる。
「しぶといな。」
俺は警戒しながらも、フェリとサキナに距離をとるように言ってそこに近づいた。
「ぼ、ぼぼぼ···。」
テトリアの残留思念がDJエフェクトのエコーのように何度も同じ言葉を繰り返している。
何を言ってるかよくわからなかったが、さっさと消してしまうべきだろう。
「ぼ、僕の···ままま···前で···イチイチイチャつ···くななななぁ···。」
なんだコイツ?
そんな姿にまでなってソレか?
相変わらずの馬鹿さ加減に呆れてしまう。
「え!?何、どうなってるの?」
パティが遅れてこちらに寄ってきた。
おそらく馬を避難させていたのだろう。
「お、お、お、お···んなぁ···。」
パティに気を取られたのか、テトリアは不完全な状態でそちらに意識を割いたようだ。
「うわ、何あれ!?気持ち悪いんだけど。」
パティには悪いが囮になってもらおう。
俺は意識を完全にそちらへやっているテトリアの死角に、気配を消しながら近寄った。
また気体か何かわからない状態だが、竜孔流を両掌にまとわせて上下から鷲掴みにするように思念体を挟んだ。
物質としての手応えは感じられない。
ただ、そこに何か重苦しい気配が存在しているのはわかった。
「ぐ···ぎ···ぎざ···ま···。」
テトリアは咄嗟に変形してパティの方に思念体を伸ばそうとした。
このまま憑依でもされたら厄介である。
仕方がない。
俺はルシファーの力を用いることにした。
背中から再び黒い翼が顕現する。
どういった作用かはわからないが、意識すればそれが具現化した。
そして何をどうなせばよいかも無意識に理解できるようだ。
6体12翼の黒い翼が巨大化してテトリアの思念体を包み込む。
本当はこの場でこの力を使う気はなかった。
LIVE配信は中断している。しかし、ビルシュがどこで見ているかわからなかったからだ。
ただ、今のテトリアを封じなければ、パティに憑依してニョタられそうなのである。
それを黙って見ているわけにはいかなかった。
先ほどの半球体の代わりに黒い翼で奴の動きを封じ、内部にありったけの竜孔流を流し込む。
「ぶ···ぶぶ···ぶぇぶぶ···。」
感電して痙攣でもしているのかコイツと思わせる声が聞こえる。
あまり気にせずに意識を集中させた。
さっさと逝け。
「い···いっ···くぅ~。」
しばらくして、最後にその一言だけを遺して奴は消えた。
最後まで気持ち悪い奴だったと思う。
気配を確認し、少しの間様子を見る。
2~3分程度の時間で奴が完全に消えたと判断した。
黒い翼が消える。
全身に嫌な汗が吹き出ていた。
テトリアは最後までしぶとく、そして不快な奴だった。
なにせ、最後の言葉が「い···いっ···くぅ~。」なのである。
馬鹿野郎にもほどがあるだろう。
LIVE配信を止めていなければ放送事故になりかねなかった。
遂に奴を倒したという達成感はやはり浮かばない。
正直、どっと疲れた。
「···彼らしい最後ね。」
サキナの一言はその通りだと思う。
彼らしい。
あんな奴だから誰にも敬われず、いいふうに使われるのだ。
深いため息を吐き、アッシュやマルガレーテたちの様子を見る。
それなりの数で襲ってきた悪魔たちではあったが、残りは半分以下にまで減っていた。
疲労感は激しいが、ここでしっかりと殲滅しておかなければならない。
「敵を引きつけてこちらに向かわせてくれないか?」
インカムで全員にそう伝える。
他にもクリスが開発した兵器を持って来ていたことを思い出したのだ。
テトリアとの戦いで溜まった鬱憤をこれで吐き出そうと考えてしまった。
「了解だ。」
「了解しました。」
「あれを使うんだな?」
ファフとマルガレーテ、そしてアッシュから返答があった。
「そうだ。一網打尽にする。巻き込まれないように回避してくれ。」
俺は顕現させるためのキーワードを唱えた。
「全部わやや。」
いつも思う。
なぜこのようにひどい関西弁がキーワードとなるのだろうか。
今更だが、神威術···今となっては違う気もするが、なんのシナジー効果が発揮されているのかまったく理解不能だった。
因みに、「全部わやや」とは、すべてがダメになるという意味である。言い得て妙だとは思う。
右肩に箱型の銃器が現れる。
銃身を引き伸ばすと、さらに200mmほど全長が伸びたそれは最大射程750mを誇る多連装のロケットランチャーだ。
4つのチューブに装填されているのは66mmのクリス特製ロケット弾で、着弾すると弾頭が弾けてショットシェルのように細かい球を展開する。
悪魔の障壁に着弾し、そこから小さな弾幕をばら撒く意図があった。もちろん、可能な限り竜孔流をまとわせることで殺傷力は高まるのである。
モデル名はRL4にした。
M202をベースに対悪魔集団殲滅用に作製してもらったものだ。
今後、悪魔との集団戦となるケースは少ない気もするので、ここで使っておかなければ日の目を見ないかもしれない。
そして、単に俺のストレス解消も兼ねていた。
余談だが、実はもう一つとんでもない兵器も渡されている。しかし、今回の敵の規模では過剰すぎて使えないためお蔵入りかもしれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます