第3章 絆 27話 「スタンピード⑤」

「正面からか?」


「何か問題があるか?」


「いや、問題ない。」


王都の外周には、全高7メートルの防護壁が巡らされていた。


その正門となるゲートは、現在は魔族の襲来に備えて閉ざされている。


そこから、およそ5kmほど離れた位置で、短い会話を交わしている3体。


いずれも人型ではあるが、重苦しさを漂わす独特の気配を放っていた。


「む···。」


「どうした?」


「やけに静かだな···。」


3体は微動だにせず、広域に意識をやる。


「···どういうことだ?」


「魔族どもの気配が消えている···。」


「待て!これは···。」


言葉半ばに、1体の胸から上が突然吹き飛んだ。


「なっ!?」


「馬鹿者!すぐに障壁を張れ!!」




俺は新たな敵の気配を感じ、転移で王都の外周壁内にある塔の上まで移動をした。


すぐにAMRー01を伏射で構える。


今いる塔は、王城を除けば王都で最も高い位置となる。


見当をつけていた悪魔らしき存在の居場所に銃口を向ける。


練り込んだ竜孔流にはまだ余裕があった。


魔族の殲滅にと溜めていたものだが、それをほとんど使うことはなかったのだ。


一番隙の大きい1体の胸部を狙う。


引き金をしぼるのと並行しながら、竜孔流を銃身に送り込み、弾丸にまとわせて発射した。


ドッゴーンッ!


狙撃には、多くの障害が存在する。


特に、今のような超長距離狙撃ともなると、風、引力、星の自転、温度、湿度、地形など、影響を及ぼす要因は数多となり、銃の性能も含めて不可能な内容であると言えた。


因みに、元の世界での超長距離狙撃の記録は3540メートル。今回は、それの1.4倍強にあたる。


普通に考えれば、命中させる確率など0に等しかった。


だが、竜孔流の力で超高速スピンが加えられた弾丸は、その常識のすべてを打ち破った。


空気を裂き、負荷となるもののすべてを押し退けて、点と点を結ぶかのように飛ぶ。


着弾。


弾丸は、対象に被弾した瞬間に炸裂し、その上体を吹き飛ばしたのだった。


通常、弾丸には回転が加わることで直進安定性が増す。


これは空気抵抗を減らすためである。


しかし、回転を高めたからといって、着弾時の威力が増す訳ではない。


回転の速さは、弾丸の重さに見合ったものでなければ、バランスを崩して逆効果となるということも忘れてはならない。


では、タイガが放った弾丸にはどのような力が作用したのか。


答えは、竜孔流による被膜である。


弾丸の周囲にバリアのようなものを形成し、それで空気からの抵抗値を0に近づけたのである。


高所からの狙撃は鋭角な弾道を描き、引力の影響を受けにくくする。そして、竜孔流による被膜は、風や湿度などから弾丸を保護し、着弾点へと正確に誘う役割を果たす。


結果として、元の世界のスナイパーすら驚愕する超長距離の狙撃が実現したのである。


「·····································。」


悪魔1体を一撃のもとで屠ったタイガではあるが、その表情は落胆しているかに見えた。


『マルガレーテは、空間収納から出した武具を遠隔で自在に操っていた。』


最初の模擬戦での彼女の動きを、剣ではなく弾丸で再現できないかと考えていたのである。


弾丸と共に手もとを離れた竜孔流の遠隔操作が可能となれば、それは一撃必中の結果を生む。


任意の相手を遠距離で確実に屠れるということは、争いを短時間で終わらせるということにつながる。それだけ負傷者も少なく、人の生活への影響もわずかで済むということだ。


環境にとらわれずに、悪魔を瞬殺する術。


鍛錬期間中にタイガが取り組んできたのは、正にそれだった。


残念ながら、完成形にはまだ至っていないが、その効果は別のところに現れたのである。


被膜となった竜孔流の超高速スピンが射程距離を格段に伸ばし、そして着弾時の弾丸への作用が恐ろしいまでの破壊力を生むことになった。


弾丸は貫通力が高ければ、殺傷力が高いわけではない。


弾頭が相手の体内で張り込み変形することで、より大きな損傷を与える。


被膜である竜孔流は、着弾した瞬間にその炸裂にさらなる力を注ぎ込み、その殺傷力を極限にまで高めることとなったのである。




悪魔の1体を狙撃で倒した。


しかし、このまま簡単には終わらないだろう。


相手の隙を突き、想定外となる攻撃で最上の結果が出たと言える。


だが、同じ手は使えない。


狙撃は、当たらなければ意味がないのだ。


残りの悪魔2体は、共に距離を置き障壁を展開していた。


魔力なのか、悪魔特有の力によるものかはわからないが、蜃気楼のようなものが悪魔たちの目前に漂い、壁の様なものが形成されていた。


転移術で間合いを詰める。


2体との距離は、およそ50メートルといったところか。


王都を背中に背負っていては、大規模な魔法などを使われると住民たちを巻き込む可能性がある。


そのため、俺はわざと標的になるように、目視が可能なスピードで左方に動いた。


蜃気楼のような障壁を通して、奴らがこちらに視線を向けているのが感覚でわかった。


以前に闘った悪魔と同様に、俺に魔力がないことは、すでに気づかれていると考えるべきだろう。


となると、仕掛けてくるのは魔法以外の攻撃。


瞬間、1体の気配が消えた。


俺は勘に従って、前方へと体を投げ出した。


半回転に体をひねり、SGー01を元いた場所に向ける。


ドンッ!


瞬間移動で俺の背後をとろうとしていた悪魔が、瞬時に障壁を展開した。


バッチーン!


SGー01を飛び出したスラッグ弾がひしゃげるのが視界に入る。


「!」


後方から迫る気配を、すぐ間近に感じた。


ふっ、と視界を覆うように、何かが顔面をめがけて落ちてくる。


とっさに瞬間移動を使い、その気配の後ろに移動する。


もう1体の悪魔。


うつ伏せに倒れるような姿勢の俺に、そいつは拳を振り下ろそうとしていたらしい。


ガシャ!


ドンッ!


がら空きの背中に、ポンプアクションで次弾を装填して発射。


しかし、相手は着弾する前に瞬間移動で姿を消していた。


俺はそれを認識した瞬間、再び瞬間移動で距離を取った。


「···そうか。どうやら、貴様がそうなのだな?」


悪魔の1体が何やら言っているが、対話をしている余裕はなかった。


瞬間移動を使える相手、しかも2体を同時となると、やはり相当に厳しかった。


竜孔流を練る余裕もなく、至近距離での銃撃すら難なくかわされる。


背中を伝う汗を感じながら、煮詰まった頭を回転させた。


まずは数の不利さをどうにかしなければ、勝機はないと見ていい。


「どうした?もう、打つ手がないか?」


「こいつには魔力が感じられない。さっさと消してしまうに限る。」


挑発的な1体とは別に、もう1体は俺にグルルの影でも見ているのかもしれない。


2体とも俺を侮っているのであれば、隙をつけば何とかなるかもしれなかった。


しかし、そう簡単には、事は運べなさそうだった。








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