第3章 絆 25話 「スタンピード③」

AMRー01を始めとした銃器は、この世界独自の機構ではある。


弾薬に魔石粉を入れ、その爆発を推進力に弾丸を射ち出している。


広義で言えば、元の世界の銃との違いは、その部分だけといっても良い。


ならば、その弾丸の推進力に竜孔流を併用すればどうなるのか。ふとした瞬間に閃いたアイデアを、模擬戦までの鍛錬中に実用化してみたのだ。


もちろん、簡単なことではない。


体内の竜孔で練り上げた力を一旦ストックし、任意で銃身に送り込み発射直後の弾丸に纏わせるのだ。


銃の砲身内には弾丸に旋回運動を与え、ジャイロ効果を施して、弾軸の安定と直進性を高めるライフリングという螺旋状の溝がある。


イメージ的には、ライフリング内を通る弾丸にトルネード化させた竜孔流で超加速を促し、有効射程距離の大幅な延長と破壊力の極大化を計ったという感じだ。後ろから押し出すのではなく、被膜のように外側を包み込むことによって、不安定にならないようにしている。


因みに、弾頭の先端に空洞を作ったホローポイント弾を使用した。


ホローポイント弾は対象に命中した瞬間に空洞部分が炸裂、もしくは膨張することで相手に大ダメージを与える弾丸である。


3体の大型種の体が着弾した衝撃で分断されたのは、竜孔流による超加速と、ホローポイント弾の炸裂による結果と言えるだろう。


貫通力に特化した一般的なフルメタルジャケット弾を使用した場合は、さらに遠距離への狙撃が可能となるが、大型種が相手であった場合、ピンポイントで急所を撃ち抜かなければ、一撃で倒すことは困難となる。




「今から上位魔族を探す。奴を倒したら、残りの魔物は2人で掃討してくれ。」


俺の指示で我に返ったルイーズとビーツは、緊張の面持ちながら力強く頷いた。


2人からは称賛の目で見られているが、今の狙撃には決定的な制限がある。


敵に気づかれない位置で竜孔を練り、正確な狙撃ができるという状況がなければ、隙が多すぎて使えないのだ。


乱戦や1対1の近距離戦では、使うに使えない手法であると言えるだろう。


魔物の群れの中に、異質な気配が混じっていないかを読む。


上位魔族は本能的に動く魔物とは違い、黒い理性を持っている。


独特の瘴気を放ち、邪気にまみれていると言っても良い。


···いた。


重苦しい気配、そしてソート・ジャッジメントの反応が同じ箇所で交差した。


俺はWCFTー01を取り出し、出力を火属性に切り替える。


「ちょっと、魔族狩りに行ってくるわ。」


ルイーズとビーツにそう伝え、魔族がいるであろう位置の上空へと転移した。




転移した先は、マークした場所の上空。


そこから自然降下をしながら、魔族の詳細位置を割り出す。


気配の濃い位置を注視し、人型の存在が視認できるまでは、それほどの時間はかからなかった。


魔物の中にも、人型のものは何種類か存在する。しかし、それは明らかに異形と言えるものばかりだった。


魔族は擬態をしていなければ、大概は屈強な巨漢の姿である。例外はいるにしても、今回のターゲットも例には漏れなかった。


WCFTー01を構え、捕捉する。


上位魔族とて、自然降下中の人の気配まで読むことは難しいらしい。まして、俺は魔力を持たない存在。探知に引っ掛かることもなかった。


殺気を出さずに、引き金をしぼる。


最大可動域まで引ききったことにより、吐き出される火力は青いレーザー様と化し、真っ直ぐに魔族をとらえた。


数秒程度で炭化したのを確認。


転移術の劣化版である瞬間移動で、そこから数十メートル離れた魔物たちが犇めく狭間に着地した。


再度、引き金をしぼる。


今度は引きっぱなしにして、180度に体を横回転させながら、周囲の魔物を凪ぎ払うようにレーザー様の光線を照射した。


3回転目で魔石の力が枯渇し、WCFTー01は沈黙するが、炭化もしくは一部が気化した魔物は数十体を数えた。


俺は再び転移を行い、ルイーズとビーツの元へと戻る。


「「·································。」」


口を半開きにして、掃討された魔物たちの場所を凝視する2人。


「交代だ。上位魔族は倒した。」


「···あの、もしかして私たちは不要では?」


短時間での決着を目の当たりにして、それがあまりにも想定外だったのか、ビーツがそんなことを言い出した。


「俺のこの攻撃は、無限に使えるものじゃないからな。それに、2人にとっては良い実戦経験になると思う。」


何となく、納得できないような顔をしたビーツに、ルイーズが肩を叩きながら促した。


そして、去り際に「理屈で考えても仕方がないわ。あの人は普通じゃないもの。」というルイーズの言葉が耳に入ってくるのだった。


いや、それはちょっと失礼じゃないかい?




「·······························。」


魔物の殲滅に行く前に俺のことを普通じゃないと言っていたルイーズだったが、いざ戦闘が始まると、その言葉をそっくりそのまま返してやりたい気分だった。


竜孔流で顕現させた翼で縦横無尽に飛び回り、魔物に触れることなく魔法で殲滅していくルイーズ。


地上から、竜孔流で肥大化させた大剣で横薙ぎに魔物を滅していくビーツ。


知らない人間が見れば、この2人こそ普通じゃないと思えただろう。


だが、良いことばかりではない。


目の前で繰り広げられている戦闘方法は、敵を滅するという点においては及第点だと言える。


端から見れば、竜騎士として獅子奮迅の活躍と言っても間違いはないだろう。


しかし、この場に味方がいた場合、あのような大技を躊躇いなく振るうのは無理としか言えなかった。


覚醒してからの初陣と思えば、今後のための経験とはなる。そして、もっと緻密な手法や連携が必要であることに気づける場でもあった。




「思ったよりも、呆気なく終わりましたね。」


魔物を殲滅して戻ってきたビーツの第一声である。


「だいぶ練度が上がったな。」


「そうですね。でも、状況的にはあれで良かったとは思いますが、ワンパターンだといつか通用しなくなりますね。」


「そうね。味方がいる場では使えない攻撃だから、もっと模索しなきゃ···。」


どうやら、取り越し苦労のようだった。


普通なら、この辺りで力に溺れて視野が狭くなるものだが、冷静に先程の状況と今後の課題が見えていたらしい。


やはり、この2人に出会えたことは大きかったと思う。


マルガレーテには完成された強さがあった。しかし、この2人の限界点はまだまだ先にある。


この3人が同等の力を持って、共に研鑽する日はそう遠くはなさそうだった。




「通信です!」


ルイーズが携帯していた通信用の魔道具が反応を示していた。


超小型のそれを耳にあてたルイーズは、短い対話を済ませた後でこちらを見た。


「王都近くで複数の魔族が確認されました。」


どうやら、予想通りの展開になりそうだった。




2人を連れて、王城へと転移した。


王城に着くなり、魔族の存在が色濃く感じられたのだが、その位置は王都を取り巻くような形で分散している。


「おお、タイガ殿!?」


転移によって突然現れた俺たちに対し、国王や公爵は思いの外冷静だった。


マルガレーテの転移術で慣れているのだろうが、その表情にはやはり焦りが見てとれる。


「スタンピードは処理できました。それで、現状は?」


現場に向かってから、まだ2時間ほどしか経過していない。一同に絶句しながら、確認を入れてきた。


「しょ···処理できたと申したか?」


「ええ、そう言いましたよ。ショタコン陛下。」


「ショ···ああ、そうか。そうだったな。それにしても、あの規模を相手にもう···。」


「ルイーズとビーツが掃討してくれましたから。正に伝承に聞く、竜騎士の活躍でした。」


「そ···そうか···。」


陛下の斜め後ろにいるドレインセルク公爵と目が合った。


その···無言で大量の涙を流す姿で直立するなよ。笑いそうになるだろう。


「それで、そちらにおられる方は?」


周りを気にせずに涙だけを流す男を、訝しげな目で見る男がいた。


何となく想像はできたが、一応聞いてみた。


「ん、ああ···キャロライン公爵じゃ。」


「そうですか。キャロライン公爵閣下、タイガ・シオタと申します。以後、お見知りおきを。」


「あ···ああ···。」


忌々しげな表情を垣間見せるが、どう扱ったら良いか判断をしかねているのだろう。言葉少なげに返答をしてきた。


キャロライン公爵家にとって、マルガレーテを据えてドレインセルク公爵家よりも一歩先んじていたつもりだったのだろうが、ルイーズとビーツは竜騎士へと覚醒してしまった。それを促した俺は疎ましい存在に違いなかった。


しかし、今の状況では嫌味の1つも言えず、複雑な心境にあるのだと推測できる。


「陛下、確かに我々は魔物を殲滅致しました。しかし、それはタイガ様が上位魔族や大型種を瞬殺して、お膳立てをしてくれたからこそです。」


「···何と申した?」


「は、タイガ様が上位魔族や大型種を瞬殺してくれたからこそと。」


「···瞬殺じゃと?」


義理堅いというか、真面目というか、ルイーズは俺の功績を伝えようとしてくれている。


気持ちはありがたいのだが、今はそれどころではない。


「ショタコン陛下、そんな些細なことは今はどうでも良いかと。今後の対応策をお聞かせください。」


俺は強引に話を進めさせることにした。














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