第1章 111話 天剣と呼ばれた男②

叙爵式のために、シニタ中立領に向かった。


同行者は、リル、パティ、フェリ、マリア、シェリルの5人だ。


アッシュは上位魔族への警戒と、事務処理がまたもや溜まりつつあるので同行許可が(嫁から)おりなかった。もう、アッシュの嫁がギルマスで良いんじゃないか?と思ってしまう。どう考えても、スレイヤーギルドの影の支配者は彼女だろう。


因みに、同行者の選抜は挙手制だったそうだ。定員が5名だったので、よくわからないが争奪戦が勃発したらしい。それぞれにパーティを組んで、模擬戦をリーグ形式で行ったとか。叙爵式にそんなに参列したいのだろうか?俺は憂鬱でしかないが。


と言うわけで、今はフェリが操る馬車でシニタに向かっているのだが、なぜかみんながベタベタとかまってくるので、ベイブに製作をしてもらった最後の銃器を組み上げることで一線を引いていた。


彼女達が寄り添ってくる事が嫌な訳ではない。だが、煩悩を抑えるということが続くのは、精神的にかなり辛いのだ。何度、俺の分身が今だ今だと勃ち上がろうとしたことか。


おそらく、いつもフラフラとしているギルマス補佐を制御しておくために、彼女達はこんなに近い距離にいるのだろう···そう、まるでアッシュとその嫁のように···って、マジか!?


正面にいるリルを見る···目が合うと、「ん?」と暖かいまなざしで見られる。


すぐ横に目を移すと、パティと目が合い、ニコッと明るい笑顔を見せてくる。


右を見るとマリアが、左を見るとシェリルが、「どうしたの?」という表情で見返してくる。


俺は恐ろしい考えに至ってしまった···この世界で、ことあるごとに妻を娶らせようとする国の重鎮達···それは、それとなく嫁の尻に敷かれて目に見えない楔を打ち付ける行為、世の男に枷をつける行為なのではないかと。


そう言えば、元の世界では「結婚は人生の墓場」なんて言葉もあった。


「どしたの?タイガ、顔が真っ青だよ。」


パティが心配そうに覗きこんできた。


「馬車に酔ったのかな?大丈夫、私が酔いを治してあげるから。」


そう言ったリルが俺の頭を抱きしめて、優しく撫でだした。


「ちょっ、ちょっとリル!抜けがけはダメだからねっ!!」


「次、私がする。」


「あ···じゃ、じゃあ、私がその次!」


ひぃぃぃぃぃっ。


代わる代わる抱きしめられながら、勝手な思考で女性不信に陥りかけたタイガであった。


そして、御者役のフェリが、「ちょっとぉ!あなたたち、タイガに何をしてるのよぉぉぉっ!!」と叫んだ。




女性達に弄られながらも、精神的に何とか立ち直った(辛い思い出を頭で反芻しながら煩悩に耐え、女性への不信を打ち払った···強敵だった。)俺は、銃器の組み立てを再開する。


前回同様に、小気味の良い音を奏でながら、全長約1400mmのそれが全容を表す。


AMRー01


武骨ながらも洗練された印象のそれは、マクミランM87Rというモデルを模している。


アンチ・マテリアル・ライフル。


元の世界では、かつての対戦車ライフル。現代の対物ライフルだ。


50口径(弾丸径13mm)のボルトアクション式で、装弾数は5発。ベースとなったM87Rの最大射程は、1800メートルに及ぶ。


フルメタルジャケットや、徹甲弾、焼夷弾などの弾薬を使用することができ、長距離からの狙撃や中短距離での対硬化魔法を想定している。


長尺であるため、通常では携行するには厳しい側面があるが、神威術により、その負担もなくなった。


この世界には精巧なスコープが存在しないが、ここにカノンの両親が開発した魔道具を流用することで、有効射程を1000メートルとしている。この世界にも眼鏡やレンズが存在するので、それを応用して搭載し、そこに魔光石(とにかく強烈に光る魔石。)の特性からカノンの両親が開発した測量用の魔道具レーザーサイトを組み合わせた。


レーザーサイトは、本来遠距離射撃に用いられるものではない。即応性が求められる近距離射撃用として、小銃や拳銃に組み合わされるものだが、スコープの望遠鏡機能の精度がそれほど高くないため、補助的に搭載した。しかし、この副作用と言うべきか、近接射撃においても腰だめで照準を定めることもでき、外郭の硬い魔物に対して数十メートルの距離から徹甲弾をピンポイントに撃ち込むことも可能だ。


アンチ・マテリアル・ライフルの短所として、射撃時の反動の強烈さがあげられる。伏射が基本とされ、普通のライフルのように肩づけや腰だめで正確な射撃はほぼ不可能と言える。しかし、異世界に来て常人を遥かに凌駕する身体能力を持つタイガは、完成時の試射でそれが可能であることを実証した。


元の世界の基準から言えば、アンチ・マテリアル・ライフルで立射による精密射撃を行い、生物に向けて乱射するなど、「どこのチート野郎だよ!?」と各国の軍関係者から一斉ツッコミにあうところだが、異世界においては一点物の魔道具(?)で魔族や魔物を狩るスレイヤーで通せるだろうと勝手に思っている。


そういった経緯で、今のタイガは尋常ならぬ身体能力、一撃必中の居合い、上位魔法士に匹敵する遠距離火力を持つに至った。


先日、フェリに「神様にケンカを売る気?」と言われたが、正にその通りだ。勝てるかどうかはわからないが、堕神上等、喧嘩上等で準備をしている。


俺の異世界での第二の人生を邪魔するのであれば、叩き潰すのみだ。




「ねえ、助けてっ!」


路地裏から2人のいかつい男に追われた色っぽいお姉さんが助けを求めてきた。


宿場町で1泊をする予定で、この町に寄った。


皆で食事をして宿屋に行くと、3人部屋が2つしか空いていないという。


「だったら、タイガは私達の部屋で泊まったら良いよ。」


マリアがそんなことを言うが、さすがにそれはマズイだろう。フェリの瞳から、肌に突き刺さる見えない何かが飛んで来ているし。


「いや···ちょっとした作業をしたいから、他の宿屋を探すよ。みんなは先に休んでくれ。朝には迎えに来る。」


そう言ってみんなと別れたのだが、他の宿屋に行く途中でトラブル発生だ。


助けを求めてきたお姉さんは、胸を押しつけるように俺の背中に密着した。


「んだぁ、てめえは!?」


「邪魔するなら、痛い目を見るぞ。」


テンプレだ。


普通なら、こういったイベントは颯爽とお姉さんを助けて、お礼にムフムフな展開になったりするのだろうが、色香をプンプン振り撒くお姉さんは疑ってかかるべきだろう。


強大なストレスにさらされるエージェントには、美人局によるトラップは非常に有効とされていた。もちろん、そんなものには引っ掛からない。俺にはソート·ジャッジメントがある。


「いや、ごめん。急いでいるから。」


そう言って、俺は立ち去ろうとした。


「へ?」


「···い···いやいや、こういった時はすぐに助けるもんだろうが!?」


そんなん知らんし。


って、なぜ野郎2人が焦るかね。自分から何かの罠ってバラしとるがな。


「う~ん···助けても良いけど、俺は加減できないぞ。殴ったら頭が吹っ飛ぶけど、良いのか?」


「「··························。」」


野郎2人は絶句した後に顔を青くし、膝が明らかに震えだしている。背後のお姉さんも、小刻みに震え、腰が引けているようだ。


「俺が誰なのか知っているよな?」


3人の態度は、明らかに俺の素性を知っているものだ。素手で魔族と対等に闘えるスレイヤーだと。


「「「···························。」」」


無言で後退る3人。


「ついでだから、少し話をしようか。無視して逃げたらどうなるか···わかるよね?」


情報収集は大切だ。




深夜。


美人局3人組を尋問した後、俺は闇ギルドと呼ばれる組織の本拠地前にいた。


本拠地とは言っても、貴族の館と同等の豪奢な建物で、敷地はかなり広大だ。シニタ中立領とテスラ王国の国境付近に位置する村全体が、闇ギルドの占有地との事。


尋問した3人から概要を確認したが、俺に対してスキャンダルを捏造するような依頼が出ているらしい。望む望まないを別にして、地位とか名声などを得ると、この手の輩が出てくるものだ。直接的な恨みか、俺が天剣となると弊害があるのか、もしくはその両方か。


闇ギルドのマスタークラスに聞くのが、1番の近道だろう。


ここへは3人への尋問を終えて、即転移をして来た。時間の猶予を与えないことで、心をかき乱し、迎撃準備などをさせない。


どうせ、反社会的組織だ。壊滅しておけば喜ぶ人も多いだろうし、銃器の実戦テストにもちょうど良い。


そんなことを内心で考えながら、大きな両開きの玄関扉を蹴り開けた。


バァーン!


扉が開け放たれた音が周囲の静寂を破る。


正面に広いホールがあり、再奥には上階に連なる幅広の階段が見える。


「な、何だてめぇはっ!?」


ホールには複数のテーブルが配置され、それぞれに人相の悪い奴等が座っていた。


総勢で28人。


瞬時に人数を把握し、一番最初に怒鳴りつけてきた男に視線を移す。


「永眠させるぞ!」


キーワードを言うと、SGー01が現れる。念じるだけで良いのだが、ここは気分だ。雰囲気出しとこ。


ドンッ!


ガシャッ!


ドンッ!


ガシャッ!


ドンッ!


ガシャッ!


ドンッ!


ガシャッ!


ドンッ!


ガシャッ!


5連射で、前方120度に散弾を展開。


テーブルにいた奴等は、被弾して体が吹っ飛んでいく。


火力を最大限に高めてはいるが、発射された散弾は樹液を固めたゴム弾擬きだ。致死性は低い。


それでもホールにいた全員が床に倒れ、静寂がすぐにやってくる。


カチャ。


カチャ。


カチャ。


カチャ。


カチャ。


弾薬を装填しながら、階段に向かう。


中二階の位置に気配。


ゴワッ!


結構な威力で炎撃が来た。


左手をそちらにかざし、炎撃を消す。


「ケ○の穴に手を突っ込んで、奥歯をガタガタいわしたろうか!」


GLー01を左手に取り、発射。


ポンッ!


ヒュ~···カンッ!ドォォォーン!!


魔法を放った奴を榴弾で壁ごと排除した。


カチッ!


シュゴッ!


カチャッ!


同じ弾薬を装填。


もう一発。


今度は2階の通路を狙い、GLー01の引金を引く。


ポンッ!


ヒュ~···カンッ!ドォォォーン!!


壁が粉砕され、外の景色が見えた。


「ギルマス、出てこいや。いつまでも隠れているなら、建物を全壊させるぞ。」


どう見ても銃火器を持った鉄砲玉である。


しかし、こういった状況では、圧倒的な武力による殲滅が最適なのだ。


逃げても無駄。


ターゲットとなった者が、交渉するしか逃げ道はないと、追い詰めることが定石だ。





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