第1章 54話 冒険者ギルド②
なぜ、こうなった?
冒険者からも護衛役を何人か出そう、という提案を受けたはずだ。
ああ、そうか。
バルトールは「提案」じゃなく、「条件」とか言っていたな。
しかし、よりにもよって、またこれか···。
俺は冒険者ギルド総本部の地下にいた。闘技場のようなところだ。
「ランクが上の奴ほど、実力を試したがるからな。好きな奴を連れて行っても構わないが、そいつらが納得できるだけのものを示してくれないか。」
バルトールのその言葉で、急遽開催されることになった。
スレイヤーVS冒険者の模擬戦。
この世界の奴等は、模擬戦好きなのだろうか。元の世界とは違い、戦闘を生業とする者が多いので、何となくわからんでもないが。
「とりあえず、ランクS3名とランクA12名が参加したいそうだ。」
バルトールの言うように、実力主義の世界では、相手の力量で物事を判断する奴は多い。
しかし、多過ぎだろ。
冒険者は暇なのか?
「どうしますか?」
スレイドが聞いてきた。
「僕達も参加しますよ。」
「私達も大丈夫です。」
アンジェリカとイングリットが既に準備を終えて合流してきている。
全員参加で模擬戦に挑めば、7vs12。
「スレイドはどう思う?」
「スレイヤーの実力を見極めたいのだと思います。ここは、ギルマス補佐と俺だけの方が良いのでは?」
「俺もそう思う。」
そのやりとりに驚いた様子もなく、バルトールが確認をしてきた。
「良いのか?2vs12になるが。」
「実力的には、それでもハンデにはなりませんから。」
「わかった。命を奪ったり、後遺症の残るようなことは避けてくれ。」
バルトールは、冒険者が舐められているとは感じていないようだった。
「ルールだが、1対1の勝抜き戦でどうだろうか。無論、武具は模擬戦用で、魔法も威力を抑えてだ。」
バルトールからの提案ではあったが、正直なところ、さっさと終わらせてしまいたかった。時間をかけるメリットがない。
「スレイド、同時に何人まで相手ができる?」
「そうですね···ランクA3名、もしくはランクS1名というところでしょうか。」
闘技場に集まってきているギャラリーからどよめきが出た。いや、非難や怒声と言うべきか。
「じゃあ、バトルロイヤルでかまわない。そちらは真剣、魔法の全力使用可で。こちらは模擬戦用の武具を使用する。魔法も防御以外は使わない。」
どよめきが止まった。
しばらくした後、口々に疑問を投げ掛け合っている。
「おい···あれって、どういう意味だ?」
「さあな、自意識過剰なバカなんじゃねえの?」
「あの黒髪の奴って、噂のギルマス補佐じゃないのか?」
「ああ、グレート·プレッシャーの2つ名の奴だろ。」
「圧だけでランクSは倒せんだろ。」
好き勝手に言ってくれる。
冒険者ギルドに出回っている俺の噂は、『圧がすごい』だけかよ。ひどいな。
スレイドをジト目で見たが、やはり目を合わせない。こいつにも、いつかデスソースを味あわせてやろう。良かったな、サドンデスソースじゃなくて。
「本当にそれで良いのか?」
さすがにバルトールが心配そうな···いや、こいつバカじゃないよな的な目で確認をしてきた。
謁見の時もそうだったが、王都でのスレイヤーに対する認識にはズレがある。
魔族は何となく脅威と感じてはいるが、実害が及ばないので対岸の火事という感じだ。元の世界で例えるなら、震災は怖いが、実際に被災していない遠方の住民にとっては、テレビやネットで見る表面的な脅威しかわからないというのに近い。まして、この世界には映像による配信技術などない。
人間をはるかに凌駕する魔族や魔物と普段から対峙しているスレイヤーとの実力差など、わからなくて当然なのかもしれない。
スレイドはランクAのスレイヤーだ。
彼が言ったように、同じランクであれば3人の冒険者を同時に相手取ることができる、というのは誇張ではない。
謁見の時に俺と闘った騎士団員は、全員が冒険者のランクS相当の実力があると、ターナー卿からは聞いている。
それならば、ランクSが12人であったとしても、俺が負ける道理はない。魔法も使えず、警棒を振り回すというのはいつもの通りだ。
「問題ありません。」
「···わかった。では10分後に始める。」
「ケリーやセイルは仲の良い冒険者がいたら、引き抜きを考えてくれていいぞ。」
「ほんとに?やった。」
「さすがですね。負ける可能性を感じられません。」
冒険者ギルドから誰かを移籍させるのであれば、強さよりも人間性を重視したかった。仮にランクSを連れていったとしたら、そいつはスレイヤーとの実力差に悩み、自滅するか逃亡する可能性がある。井の中の蛙ではないが、一つの枠の中で自分の実力にプライドを持った奴は、そうなる傾向が強いのだ。
「タイガさん、僕には聞いてくれないんですか?」
「·····ああ、ごめん。ガイウスは友達がいないタイプだと思って。」
「ひどっ!?僕にもいますよ、友達くらい。」
「じゃあ、後で紹介してくれ。楽しみにしとくよ。」
こちらの陣営は、なごやかな雰囲気で開始の合図を待つことになった。
「そろそろですね。」
開始1分前に、スレイドが声をかけてきた。
「ああ。ずいぶんと目つきの悪い冒険者が揃っているな。」
「····本気で言っています?」
「何で?」
「そりゃあ、こんな状況になれば、相手が殺気立ちますよ。」
「なめられていると感じてるからか?闘いに感情を持ち込むのは二流のすることだ。」
「···そうですね。」
スレイドは諦めたような表情をしている。何か間違ったことを言っただろうか?
「出だしはどう予想する?」
「魔法の集中砲火でしょう。」
「だろうな。俺が前に出て受けるから、壁に使ってくれ。」
「良いんですか?」
「どうせ効かないからな。」
相手は12人。
対して、こちらは2人だ。
実戦なら、人数が多い方が扇状に展開をして、魔法を集中砲火させれば決着はすぐにつく。
「相手の魔法が途切れたら、正面に障壁を作ってくれ。その後は左の奴らを頼む。」
口許を手で隠しながら、スレイドに指示を出す。
「了解です。」
15メートル程の距離をとり、立ち止まる。相手に魔法の集中砲火をさせるための布石だ。
「ずいぶんと舐めた態度をとってくれたな。その自信が身を滅ぼすぜ。」
中央にいる若い男が何か言っている。
「····················。」
「···だんまりかよ!てめぇ。」
「はぁ····ギルマスもそうだったが、冒険者は口が悪いな。吠えるなら、勝ってからにしたらどうだ。」
「ああっ!ふざけてんじゃねぇ。」
チンピラか、こいつ。
「俺を誰だと思ってやがる!ランクSのサマーズ様だぞ!!」
「ああ、そう。がんばってね。」
「···········っ!」
サマーズがむきーっと怒っているが、無視をした。バルトールが手をまっすぐに挙げているのだ。
開戦の合図が出た。
すぐ後ろにスレイドがいる。
相手から見たら、意味がわからない動きだろう。前後に隊列を組み、足並みを揃えて前進している。
身構えることもせずにまっすぐ向かってくる俺達を、訝しげに見ていた冒険者達だったが、サマーズの一声で魔法を放ち出した。
「やれ!消し炭にしちまえ!!」
炎撃
氷撃
風撃
12人全員が、魔法の一斉攻撃を始めた。まるで大きな花火を打ち込まれているような感覚だ。
すべての魔法が交差する地点に俺達がいる。中には手前でぶつかりあい、相殺されるものもあった。
こちらにたどり着くまでにその数はかなり減り、連携の未熟さを物語っている。
俺は迫りくる魔法に回し蹴りを繰り出し、すべてを打ち消した。
「えっ、えっ!?嘘だろっ!!」
「マジか!?」
俺に触れるだけで魔法は消滅するのだが、そんなところを見せると、また変な2つ名を付けられかねない。だから、何となく攻撃で打ち消しているように見せかけた。
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