第1章 53話 冒険者ギルド①

王城を出て、冒険者ギルドに向かう。


ギルド総本部は王都のギルドと同じ建物内にある。徒歩で20分くらいの距離だ。


帯同するのはスレイド、ケリー、セイル、ガイウスの4人。アンジェリカとイングリットは長期の派遣となるので、別行動で引っ越しの準備をすることになった。


「引っ越しの準備が大変じゃないか?手伝うよ。」


そう言ってみたが、「私達は寮住まいなので、身の回りの物だけの荷造りで大丈夫なんです。」と、返事が返ってきた。


馬車に荷物を積み込んでから、合流するとの事だ。


大人数での移動となるので、大公が馬車を提供してくれた。以前にフェリが使っていたものと同じタイプだ。「誰が動かすんだ?」と思ったが、セイルが精霊魔法を使えるらしい。


何気に大幅な戦力アップができてしまったようだ。


ギルド総本部に到着したので、受付でグランドマスターへのアポを申し出た。


若い受付嬢と楽しそうに話をしていたおっさんが、急に不機嫌そうな表情に変わり応対してきた。


「アポなしだと取り次ぎはできない。緊急だとしても、こちらには関係ないしな。」


明らかに面倒くさそうだ。


チッと舌打ちまでしやがった。


「アポなしで急に来たのは申し訳ないが、私はスレイヤーギルドの代表として来ている。適当な応対をされているが、あなたのことはグランドマスターとギルド協会にお伝えをしておこう。冒険者ギルドの品格を下げていると。」


「そっちが誰かは知らんがな、ルールはルールだろうが?常識がないのかてめぇ!?」


「スレイヤーギルドのギルマス補佐なんだが。」


「はぁ、ギルマス補佐だと?こっちは王都ギルドのギルマス様だぞ。」


だめだ。


こういう奴には教育が必要だろう。


「おまえか。バーネットに対してセクハラ発言を繰り返してボコられたのは?」


受付嬢が「え~!」と軽蔑の眼差しでギルマスを見た。


「なっ!?何だてめえは!そっちこそ、いちゃもんをつけてんじゃねぇよ!!」


「ギルマスだったの!?バーネットちゃんをセクハラした上に、追放したって···最低だよぉ!!」


セイルがプンプンと怒りだした。


「あ!おま···あなたは、トレイン様!?」


どうやらギルマスだけあって、セイルの素性を知っているようだ。


「そうだ。こいつはセクハラ発言を繰り返した挙げ句に、怒って抗議をした冒険者をギルドから永久追放した最低の奴だ。」


「うん、ひどい。」


「あまり良い噂を聞かなかったけど、本当に最低だね。」


セイルに続いて、ガイウスも乗っかってきた。ニヤッと笑っている。


「チェ、チェンバレン様まで····。」


「因みに、タイガさんは、あのスレイヤーギルドのギルマス補佐だよ。大丈夫かな。ギルマスに明日はないかも知れないな。」


「····へっ?あの噂の?」


おいおい。


冒険者ギルドでも、俺の変な噂が出回っているのか?勘弁してくれ。


怯えだしたギルマスに対して、さらに追い打ちをかけることにした。相手の立場によって態度を変える奴は異常にムカつく。


大公から預かった指示書を出して、高圧的な態度をとる。


「我々は大公閣下からの書類をグランドマスターに届けに来た。それをおまえは妨害したよな?」


「い···いや···それは、知らなかったから···。」


「知らなかったら何をしても良いのか?セクハラをしようが、他組織からの客人を無下にしようが、冒険者ギルドではそのような対応をすることがマニュアル化されているのか?ギルマスという立場でそんな態度をとることは、組織の体質を物語るぞ。」


たらたらと汗を流して、青白い顔をするギルマス。バーネットのことを考えると、このまま許すのも釈然としないと思っていた矢先だ。


「失礼ですが、スレイヤーギルドのギルマス補佐、タイガ·シオタさんですね?この男が無礼をしました。」


突然割って入ってきたのは、厳つい中にも知性が感じられる偉丈夫だった。


「あなたは?」


「私は冒険者ギルド総本部のグランドマスター、バルトール·チェスカ。応接室にご案内をしますので、そこでご用向きをお聞きしましょう。」


俺はあからさまにギルマスに目をやった。目線で無罪放免か?と訴えてみる。


「ああ···ギルマスは後で処分を言い渡すので、執務室で謹慎をしているように。」


「···はい。」


項垂れたギルマスは、とぼとぼと去って行った。


自業自得だ。


執務室に入った途端に、バルトールは笑いだした。


「クックック···最高だな。噂通り強烈なキャラをしている。」


自分の言葉にはまったのか、腹を抱えてなお笑うグランドマスター。


「···気でも触れましたか?」


失礼じゃないか?笑いすぎだろ。


「ひぃひぃ···いや、失礼した。大公閣下やギルド内からもいろいろと噂を聞いていたが···ぷっ!···あのギルマスの顔···くっくっ。」


「あの···私はスレイヤーのスレイド·カーハートです。グランドマスターは、もしかして元王国騎士団長のバルトール·チェスカ様では?」


「ああ、そうだ。ガリレオの所の倅か。ジョシュアよりも父親に良く似ている。」


「やはりそうでしたか。ご無沙汰しております。」


「俺が騎士団にいた頃以来だから、10年ぶりくらいか。でかくなったな。」


「バルトール様もお元気そうで何よりです。」


なんだ、知り合いなのか?


「グランドマスターは叔父なんです。その伝手もあって、僕達は冒険者ギルドにお世話になっていたんですよ。」


バルトールとスレイドが話している間に、ガイウスが説明をしてくれた。


「そうなのか。そう言えば、ケリーやセイルと一緒に冒険者になったのはなぜなんだ?」


「幼なじみなんですよ。学校は違いましたけど。僕は初等教育から王立帝王学専修学園、2人はスレイドさんと中等教育まで同じ学校だったみたいですね。ケリーとセイルが、『魔導学院を卒業したら冒険者になる』と言ったのを危惧した陛下が、既に冒険者登録をしていた僕にパーティーを一緒に組むように依頼されたんです。」


王立帝王学専修学園とは、文字通り帝王学を専門に学ぶ、超エリート学校だ。詳しくは知らないが、王族や上位貴族の子息が最初に目標にする登竜門になっているらしい。


「そうか。ガイウスはエリートなんだな。」


「何を基準にするかによると思います。僕からすれば、タイガさんの方がエリートですよ。」


「何の?」


「頭脳戦とか弁論の。もちろん、武芸もですけど。」


「···それは素直に評価されていると喜んで良いのか?」


「もちろんですよ。」


なんか複雑な気分だ。


どちらかというと、相手の意表をつくのが得意で、搦め手ばかりを使っている気がする。人間としては曲者の部類に入るのだが。


「冒険者ギルドにああいった輩がいるのは、私の管理不足だ。いろいろと迷惑をかけて申し訳ない。」


「···先程の爆笑は何でしょうか?」


「ああ、すまない。ある方面から君の2つ名を聞いていたものだから···まさしくその通りだったよ。」


「どの2つ名ですか?」


いっぱい有りすぎてわからん。


「グレート·プレッシャー(圧がすごい)だ。」


「···それって、ジョシュアさんから聞いたのではありませんか?」


「そうだが。」


俺はスレイドを見た。


目を逸らしやがった。


おまえか。


「先程の経緯を見ていたが、噂以上だった。グレーテスト·プレッシャーでも良いんじゃないかな。ハッハッハッ。」


またもや、バルトールは笑いだした。笑い上戸かコイツ。


国王や大公と同じで、疲れるおっさんだ。


いや、待てよ。


よく考えたら、こいつら全員が親戚じゃないか。血の繋がりはともかく、この縁族はおっさんになったらめんどくさい奴等になるのか?


俺はそっとガイウスを見た。


「あれ、どうかしました?」


あどけない顔で笑顔を見せるガイウス。


そうか、あいつもいずれこうなるのか。


テレジアと結婚をすることになれば大変そうだ。親戚の集まりでストレスしか溜まらんぞ。


気をつけよう。




落ち着いた所で、改めて本題に入った。


俺以外のメンバーは面識があるようだし、バルトールは協力的だった。


「了承した。魔族の脅威は知っているし、ガイウス達にも良い経験になるだろう。」


「ありがとうございます。」


「ただし、1つだけ条件がある。」


「何でしょう?」


「ワルキューレの2人だけでは、護衛の人数が足りないだろう。冒険者からも何人か出そう。」


えっ?


マジで?








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る