第1章 32話 レイド 魔族無双②
「土煙が晴れたら、降りて残りのスレイヤー達を蹂躙してやろう。」
悠長にそんなことを話す魔族達に、再び高速の飛来物が襲う。
「なっ···!?」
連続して飛んでくる飛来物を、焦った表情で避ける魔族達。飛んでくるのは、先ほどのような石だけではない。丸太のようなものも含まれている。
直撃こそはしなかったが、魔族達に震撼が走った。
絶命したと思っていた人間が、土煙の中からそこら中に落ちている物を、手当たり次第に投げてきたのだ。
「な···何なのだっ!なぜ生きているっ!!」
「奴は本当に人間なのか!」
「ありえないっ!ありえないぞ~!!」
口々に騒ぐ魔族達は、自分達の常識が通用しない相手を初めて知覚し、パニックに陥っていた。
一方、今の光景を見た村のスレイヤー達は、
「タイガっ!」
「やっぱり、生きていらしたわ。」
「タイガさん!」
「···マジか···噂以上のバケモンかよっ!」
と、安堵と驚きの言葉を口にする同じパーティーの仲間と、
「ええ···ホンマもんのバケモノや··。」
「あれが···ギルマス補佐なのか···同じ人間なのか···。」
などと、魔族と同じ畏怖を感じる者達に二分された。
土煙の中にいたタイガは、魔族達が自分が死亡したと思い込み、村を標的にしないように手当たり次第に物を投げていた。
さすがに何度も直撃するほど間抜けではないだろうが、足留めにはなったようだ。
体が土煙でどろどろになっている。早く終わらせて風呂に入りたい。
ダメージは一切なかった。
激しい爆裂魔法が降り注ぐ中でも、魔法が俺を傷つけることはない。ただ、爆風で吹き飛ぶ石や木片などからはダメージを受ける。
それを防ぐのは簡単なことだった。
爆風が起こる中心部に入れば良い。台風の目の中にいると考えれば、イメージをしやすいだろうか?魔法も着弾点から外に向けて衝撃波を生む。それが爆風となるのだ。
さすがに正面から受けて消滅をさせることは、魔法の規模が大きすぎて無理だった。近くに人がいなかったのが幸いだ。
まぁ、こんな緊急避難方法を思いついたのは、ミシェルのメテオライト·ドライブを見たからということもある。おかげで負傷することもなかったし、後でほめてやろう。
蒼龍の柄に手を添える。
抜刀。
旋風斬。
剣圧で周囲の土煙を払い除ける。
旋風斬は、敵に囲まれた時に広範囲への斬撃を行う術だ。軸足を起点にして、全方位に刀を振るう。
元の世界で修得した居合術の1つだが、まさか視界を確保するために使えるとは思わなかった。
半径約10メートルに渡って、薄くなりつつあった土煙が晴れていく。
蒼龍を鞘に納めた俺は、魔族3体に向かって手招きをした。
さあ、殺り合おうか。
「人間ごときがっ!調子に乗るなぁぁーっ!!」
魔族の1体が炎撃を放った。
人間の魔法よりも見るからに強力な炎の塊が、隕石が落下するかのような勢いでタイガを直撃する···が、瞬時に消滅した。
「···なっ!」
呆気に取られる魔族に対して、にんまりと笑いながら再び中指を立てて挑発をする。
あ···良い子は真似しちゃいけないやつだ、これ。スレイヤーの中で流行ったらどうしよう。
「···魔法が消滅した···だと···。」
「···まさか···魔法が効かないのか!?」
「信じられないが···それならば、先ほどの爆裂魔法で無傷であることもつじつまがあう···。」
魔族達は互いの顔を見合わせた。
「「「なんだとっ!!!」」」
おお、魔族達がでかい口を開けて、何かを叫んでいる。
このまま逃げたりはしないよな?飛んでる奴等は捕まえられないぞ。
タイガがそんなことを考えていると、3体の魔族達が降下を始めた。
地面に降り立った魔族達は、いずれも青銅色の肌に赤い瞳と髪をしている。禍々しいオーラを放ち、こちらを凝視した。
「何だ?精神干渉なら効かないぞ。」
「「「!」」」
魔族が放つオーラは、人間の魔力に干渉して精神干渉を引き起こす。こいつらは魔法が本当に効かないのかを確認するために降りてきたのだろう。
「···なぜだ?なぜ貴様は平気でいられるのだ。」
「企業秘密だ。」
「···企業秘密というのは何なのだ?」
あ、そうか。
この世界に企業なんてないわな。
「俺が編み出した新型の魔法だよ。」
「新型···企業秘密···。」
テキトーなことを言ったのに、真面目に考えている姿が滑稽だった。いかん、笑ってしまう。
「なんだ、貴様!何を笑っている!!」
「ああ、悪い。いろいろと新しい魔法があるから、もっと見せてやろうかと思ってな。」
「貴様、名は何と言う?」
魔族に名前を覚えられるのは、あまり気持ちの良いものじゃないな···。よし、偽名でいいや。
「俺の名前か?アッシュ·フォン·ギルバートだ。」
「アッシュ·フォン·ギルバートだと?」
「それでは、貴様がギルマスなのか?」
あ···しまった。
こいつら、アッシュのことを知っていやがった。
「髪の色が聞いていたのとは違うぞ。確か銀髪だと···。」
「染めたんだ。」
「瞳の色も青いと···。」
「染めたんだ。」
あ···。
「「「·························。」」」
「····間違えた。染めたんじゃなくて、カラコンだ。」
「···カラコンとは何だ?」
「企業秘密だ。」
「またそれか?企業秘密とは、どのくらいの種類の魔法があるのだ?」
魔族は好奇心が旺盛のようだ。
新型の魔法に興味津々で、闘うことを忘れているのか?
あ、良いことを思いついた。
「仕方がないな。特別に見せてやるよ。新型の魔法、企業秘密の一部を。」
「何!?本当かっ?」
3体とも、赤い瞳を輝かせてるよ。
ほんと、バカじゃないのか。
「今から使う魔法は、名付けて···」
「「「名付けて···?」」」
そんなことを話ながら、俺はベルトにつけたツール入れ···シザーバッグのようなものだ···から小さなビンを取り出して、蓋を緩める。
「誰でも良いから、少し前に出てきてくれないか?この魔法は有効射程が短いんだ。」
「···良いだろう。我が出る。」
そう言った1体が、こちらに近づいてきた。5メートルくらいの距離で立ち止まる。
「これで良いだろう。それで、魔法の名は?」
本当に救いようがないバカだ。
「コショウショウショウだ。」
「な···何?コショショ···??」
俺はコンパクトなフォームでビンを投げつけた。
高速で飛んでくるビンを、前に出ていた魔族が反射的に手で受け取った。そして、その反動で蓋が外れる。
中から黒い粉が飛び散り、魔族の顔に降り注いだ。
「ぶわっ!な··ぶふ··ぇっ··くしょん!!」
胡椒少々だ。
抜刀。
斬!
魔族の1体は、くしゃみをしながら地獄へと旅立った。
「なっ!?···貴様!我等を欺いたのか!」
いやいや、欺くも何も、俺流の魔法を見せてやっただけだろ。休戦した覚えはないぞ。
気にせずに次の攻撃に移った。
「次の魔法だ。」
そう言って、ツールバッグから別のビンを数本取り出して、残る2体の魔族に投げつけた。
「同じ手が何度も通用するか!」
魔族は瞬時に魔法を放ち、飛んでくるビンを破壊した。
魔法によりビンが弾け、赤黒い液体が霧散する。
かかった!
俺は蒼龍を一振りし、剣風を起こして霧散した液体を魔族に浴びせた。
「ぐぎゃゃゃぁぁぁー!目が!!目がぁー!!!」
「ひぃぃぃ··な··何だっ!辛っ···辛いーっ!!」
ビンの中身は、特製のブートジョロキア級唐辛子ソースだ。この辺りにはハラペーニョ、ブートジョロキアといった唐辛子がなかったので、それに近い物を探して作っておいたのだ。
因みに、コショウは遠征時の料理の味付け用、唐辛子ソースはもちろんアッシュのお仕置き用に常備していた。
「名付けて、サドンデスソース·スプラーッシュ!」
そして、さらばだ。
おバカな魔族達よ。
風撃無双!
「ま···魔族を全員倒した···。」
「やっぱ···あの人、ヤバすぎじゃね?」
「なんかビンのような物をいっぱい投げていたけど、あれ何?」
土煙はすでにおさまり、村からはタイガと魔族達の闘いが目視できるようになっていた。
改めて、スレイヤー達の間ではタイガの非常識な強さが話題となり、これ以降も危険人物と見なされて、近づいてくる人間はあまりいなかったという。
そして、タイガに戦闘で使用したビンの中身を聞いたパティやバーネットが、その事実を他の者達に話したことにより、新たな訳のわからない2つ名が付けられることになった。
新たな2つ名。それは、
『スパイス·オブ·マジシャン』
初めて聞いた者のほとんどは、
「タイガは料理人なのか?」
と尋ねたという。
余談だが、この闘い以降に、魔族には激辛ソースとコショウが有効なアイテムになるとして認知がされ、スレイヤー達が常備するようになったのは言うまでもない···。
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