第1章 31話 レイド 魔族無双①

オーク達が殲滅された場所のはるか上空に、4体の魔族がいた。


聖属性魔法士がスレイヤーに同行している可能性を考えて、かなりの距離を取っている。存在を察知されるのを警戒しているのだ。


「奴がそうか?」


「おそらくな。近接戦闘だけで、あれだけの数のオーク達に恐怖を与えて殲滅に導いた。ほぼ間違いないだろう。」


「あれがギルマスなのか?」


「わからん。さすがにここからでは、髪の色までは判別できん。」


「まあな。気配だけで状況を察知してる弊害だ。仕方ない。」


「だが、厄介なのはギルマスだけだと聞いているぞ。あれだけ強力な奴がそうそういてたまるかよ。」


「で、どうする?」


「この1週間で、我らの同朋が5人も命を奪われておるのだぞ。これは由々しき事態だ。」


「だから今殺るのかと聞いている。」


「南方の村に人が集結している。おそらく奴等の仲間だろう。一緒に滅してやれば良い。」


「そうだな。我ら4人であれば、殲滅するのは難しいものではないだろう。」


「近接戦には持ち込まれるな。物理攻撃での闘いは厄介だ。」


「相手の得意な分野で闘うなど、バカがやることだ。距離を置いて魔法で塵にしてやればいい。」


「愚問だったな。」


「おお。都合良く村の方に移動を始めたようだ。」


「では我々もゆっくりと向うとしよう。揃ったところで一網打尽にするのも一興よ。」


この時点で魔族達は知らなかった。


相手が既にこの4体の存在に気づいていることに。


そして、魔法がまったく通用しない相手だと言うことも。




ソート·ジャッジメントが反応した。


上空に4体の強い邪気。


こちらをうかがっているのか、気になる動きはない。奴等の存在に気づいていることを、悟られないように視線は向けなかった。


「村に戻ろう。」


他の4人に声をかけて、来た道を引き返す。


ミシェルが異様に元気の良い返事をしてきたが、自分がやり過ぎたことをわかっていないようだ。


うん、あまり関わらないようにしよう。面倒くさそうだ。




上空の魔族4体がこちらの動きについて来ている。


そう感じながら村に向けて疾走するタイガは、斜面を登る際にさりげなく手頃な石を2つ拾い上げて両手に持っていた。


すぐ後ろを必死に追いすがる4人に向けて言葉を放つ。


「視線をそのままにして聞いてくれ。かなり離れた上空から、魔族が追って来ている。」


「「「「えっ!」」」」


マジかよって顔をする4人だが、言われた通りに視線は前を向けたままだ。


「少し手前で俺だけが残る。みんなは村まで行って、待機している者たちに知らせるんだ。」


「援軍を呼ぶんですね?」


「違う。村にいるスレイヤー全員で障壁を張れ。村人達を守るんだ。」


絶句する4人。


「奴等の魔法は俺では防ぎきれない。攻撃は俺がするから頼む。」


「そんな···私も残ります!」


ミシェルが叫ぶように声を出す。


「····悪いが、足手まといだ。」


わざと冷たく言い放った。


「!」


ミシェルの表情が一瞬にして強ばったが、セティの言葉がフォローとなった。


「ミシェル、気持ちはわかるけど、私達では魔族には敵わない。できることをしっかりとこなしましょう。」


周りが見えていないミシェルよりも、セティは大人びて見えた。


胸の大きさと比例している···とこっそりと思ったが、もちろん口に出しては言わない。なぜなら、セクハラだからだ。まだまだ女子には嫌われたくないお年頃だしぃ~。


「うん、わかった!」


おお、立ち直り早えっ!




上空から追ってきていた魔族たちは高度を下げ、気配ではなく目視による追跡を行っていた。


眼下のスレイヤー達は村の手前にある枝葉が生い茂った地点に入り、上空からは姿が隠れた状態となっている。


「もうすぐ出てくるな。あそこを過ぎれば、村はもう目と鼻の先だ。」


「出てきたぞ。」


「ん?1人足りんぞ。」


魔族達がそう話していると、突然豊かに生い茂った枝葉の中から、何かが高速で飛んできた。


「なっ!攻撃か!?」


魔族4体はその飛来物を避けるように旋回する。それが何なのかを確認するために、目線を逸らした瞬間。


「ふごっ!!」


もう1つの高速飛来物が、1体の魔族の後頭部に直撃した。




俺は両手に持った石を、時間差で魔族に投げつけた。


生い茂る枝葉を隠れ蓑にしたブラインドスローだが、邪気で魔族の位置は正確に把握できていた。


スレイド達が村まで駆け抜けるまでの牽制で投じた2発のうちの1発が魔族に直撃する。


今さらだが、魔族は人間に対してかなりの油断をしているのか?


それとも、ただ間抜けなのか?


簡単に罠にひっかかるところを見ると、両方なのかもしれない。バカが相手だと、こちらは楽で助かるのだが。


投石を食らった魔族が、そのまま地面まで落ちてきた。


上空に投げたので大した威力ではないだろうが、あたりどころが悪かったのかもしれない。


すぐに気配を消して、落下地点に向かった。




「ぐっ···何だ···何が起こった!?」


上空から落ちてきて、地面に叩きつけられた魔族は頭が混乱していた。何が起こったのかを把握できず、自分がどこにいるのかもわかっていない。


後方に微かな気配を感じて振り向くと、黒いコートを羽織った人間が立っていた。


抜刀。


斬!


魔族の1体はそのまま袈裟斬りに両断された。




上空の魔族達は、落ちた仲間の気配が消えたことに気がついた。


投石をまともに受けたのは間抜けだが、敵の計算しつくされた奇襲に驚愕する。


「おい、死んだぞっ!」


「わかっている。わめくな。」


「上空にいた我等に気づいていたとでも言うのか。小癪な人間め!」


魔族達は怒り狂った。


自分達よりもはるかに劣る下等生物と見なしている人間に、いいようにあしらわれたのだ。 


「出てきたぞっ!」


枝葉の繁みから出てきた人間が、中指を立てて挑発をしてきた。


「おのれ!目にものを見せてくれるわ!!」


3体の魔族達は、上空からありったけの魔法を放ち出した。


たった1人の人間に対して、過剰なまでの攻撃。


地面が爆発を起こし、炎が辺りを覆う。


木が弾け、周囲一面を爆風がなでる。


爆音と轟音が山に木霊し、地が震えた。




標的がいる場所に連続した爆裂魔法が着弾し、地面は既に原型をとどめないほどの焦土と化している。


普通に考えれば、ありえないほどの破壊。


魔族達の怒りの強さがその攻撃に現れているかのように、集中砲火は数分間続いた。


「お···おい···あれ···ヤバくね?」


村にいたスレイヤーの1人が、誰にともなしに呟いた。


レイドが発令したことにより集結したパーティーは、パティやスレイド達を含めて7組、総勢32名。


魔物の発生個体数と、何らかの陽動ではないかと言う推測のもとに、緊急で手配された総数だ。到着して早々に魔物数百体はすでに殲滅され、新たに魔族が出現したと聞かされた。


こういったレイドでの召集は数ヵ月に1度の割合で発生していたが、今回のように魔物の大群の出現に続いて、魔族の存在が確認されるのは極めて稀なケースと言えた。


しかも、先行していたランクAスレイヤーの指示に従い、全体で障壁を張ると、これまでに経験をしたことのない爆裂がすぐ近くで巻き起こった。


驚愕と恐怖がスレイヤー達に走る。


「タイガは···あいつは大丈夫なのか!?」


バーネットがパティに向けて叫ぶ。


「···大丈夫···だと思う···。」


バーネットは、タイガに魔法が通用しないことを知らない。だが、それを知っているパティにも不安が押し寄せてきていた。


これだけの爆裂魔法は、これまでに見たことがない。いくらタイガでも、あれだけの破壊力や爆風で飛ぶ木や石の破片に曝されると、無事では済まないのではないか···まして負傷してからまだ数日しか経っていない。その思いが断ち切れなかったのだ。


「タイガさん···。」


同じ気持ちは、シスにも大きな不安として襲っていた。


魔族の驚異的な攻撃と、信頼するタイガへの心配が怒濤のように押し寄せてくる。タイガに魔法が効かないことは聞いている。しかし、それを実際に見たことがないシスには、この目の前の光景は衝撃的すぎた。


「大丈夫。タイガさんは無敵です。」


そんな周囲を勇気づけるように、テスがきっぱりと言い放った。


テスにも不安がない訳ではない。


しかし、彼女にはこれまでの経緯から、他の誰にもできないような闘いに身を投じ、それを打ち破ってきたタイガの姿が強い印象としてあった。彼は私達を見捨てない。絶対に。その強い気持ちが、タイガの無事を信じていた。


「ククク···少し、やり過ぎたか?」


「人間達に改めて我々の恐怖を植えつけるのには、ちょうど良かったのではないか?」


「確かにな。だが、村にいる者達もすぐに殲滅する。証人は誰も残らんのではないか?」


「誰か1人だけでも生かしておけばいい。我等の力を吹聴させるためにな。」


「ああ。そうだな。そうしよう。」


ようやく、魔法による攻撃を終えた魔族達は、満足そうにそんな会話をしていた。


眼下には今も土煙が色濃く漂い、標的がいた周辺を視認することはできなかった。だが、気配を感じない。この世界では、気配をよむと言うことは魔力をよむのと同意義である。魔力のない生命体など存在しないからだ。


魔族達は、標的であるタイガの死を信じて疑わなかった。














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