第1章 30話 レイド 魔物襲来②
ノンストップで駆け抜けたおかげで、目的地である村には魔物の驚異が迫る前に着くことができた。
馬から降りて、手綱を引きながら村に入る。すぐに厩舎が見えてきたので、そちらに向かうと声をかけられた。
「ギルマス補佐じゃないですか!」
ん?
「あなたが来てくれたんですね?」
えっ、誰だっけ?
「あ···えっと···。」
精悍な顔をした、長身で屈強な体の若いイケメンが話しかけてくるが、誰だかわからん。
「タイガ、ランクAのスレイドだよ。」
パティが紹介をしてくれた。
「ああ、スレイヤーなのか。初めて見た顔だから、誰だかわからなかった。」
ガーン!とショックを受けた顔をするスレイド。いや、知らんし。
自分で名を名乗らんかい。
「うちのギルドの現役スレイヤーの中では、ギルマスに次ぐ戦闘力を持っていると噂されるくらいの実力者ですよ。」
テスが解説をしてくれた。
「ふ~ん。」
「ふ~んって、興味ないんだね。タイガは女の子ばっかり見すぎだよ。」
なぜか、パティがぷりぷり怒っている。
俺、何かしたか?
ってか、女の子ばっかり見てる訳じゃないぞ。
興味がないのはその通りだけど。
「い···いや···ギルマス補佐の強さと比べたら、俺なんかまだまだですから。知られてなくても仕方ないですよ。」
苦笑いしてるぞ。
顔がひきつってるし。
「ギルマスに次ぐ実力者って言うと、素手で魔族を倒せるのか?」
バーネットが、トドメのような一言を放った。
「す···素手で···い、いや、無理ですよ!」
「素手で倒すような滅茶苦茶なのは、タイガくらいだよ。」
滅茶苦茶は余計だぞ、パティ。
「俺はギルマスと、ギルマス補佐に憧れているんですよ。あの無敵の強さ···。」
「悪いが、そんなことを話してる暇はないだろう。すぐに監視役の所に案内をしてくれないか。」
「あ、はい。今すぐご案内します!」
悪いなスレイド。
俺は爽やか系イケメンには、コンプレックスを感じるから冷たいのだ。同じイケメンでも、アッシュは腹黒いからツッコミを入れて楽しめるが、お前はノリが悪い。
「スレイドのパーティーの前衛は?」
「監視役の中に1名、それに俺とここにいるセティです。」
セティは気の強そうな感じだが、キレイな女の子だった。
よし、許そう。
「スレイドとセティは俺と一緒だ。残りのメンバーは、この村に残って万一に備えて欲しい。」
「「「「了解!」」」」
俺達は、すぐにオークが集結している場所に向かった。
「方角はここから直線上か?」
監視役のスレイヤーがいる方向を、スレイドに聞いた。
「はい。8キロくらい先です。」
「わかった。全力で行くぞ。」
そう言うなり、俺は全速力で駆けた。
「え···速っ!」
「うそっ···ついて行けないっ!」
スレイヤーは、知らない者であっても仲間だ。そんな者達の誰にも、命を落として欲しくはなかった。スレイドとセティが遅れているのには気づいていたが、監視役として2人を残らせるように言ったのは俺だ。窮地に陥らないうちにたどり着きたかった。
急斜面や岩場を無視して走る。
15分もしないうちに、邪気の集合体にソート·ジャッジメントが反応した。北に向かっていたが、標的であるオーク達が進路を北北西に向けて動いているのがわかった。
俺は方向を修正して、スピードを上げた。斜面を下る勢いに乗り、さらに加速する。
「だめだ。このままじゃ追いつかれる!」
「こんなとこで死にたくないよぅ。」
監視役で残ったケイガンとミシェルは、必死になって走っていた。
100体と報告をされていたオークは、今や300体をこえて、さらに増えている。間違いなく、なぶり殺しにされてしまうだろう。だが、村のある方向に逃げれば、犠牲者はさらに増えてしまう。何とか時間を稼いで増援を待ちたかった。
「はぁはぁ···もうだめ···だよ。」
ミシェルは魔法士だ。
パーティーの中でも体力は一番低い。監視役として残ったのは、パーティーの中で最も攻撃力の高い魔法が使えるからだが、その選択が仇となった。
オーク達が進行を開始したら、強力な魔法を撃ち込んで足留めをするつもりだったが、知らない間に後ろから回り込まれて、攻撃されそうになった。ケイガンが何とか応戦して難を逃れたが、他のオーク達に存在がばれてしまい、この結果を生んでしまった。
スレイド、早く戻ってきてくれ。
ミシェルを庇いながら、そう心の中で思うケイガンも、数十メートル後方に迫ったオークの大群に、自分の死を悟っていた。
見えた。
俺は斜面を高速で下りながら、山の谷間にいるオークの大群を視界に捉えた。
300体どころじゃない。
500近いんじゃないか?
時間を経る度に増え続けるオーク達を見て、やはり何かの罠の可能性が頭をよぎる。
大群の先方には、2人の人間が必死で逃げているのが見えた。監視役のスレイヤーだろう。
これはさっさと終わらせるべきだな。
右手を肩の方に回し、バスタードソードの柄を握る。多勢が相手だと、蒼龍よりも刃こぼれを気にする必要がないこちらの一択だ。
山の起伏や隊列を考えると、風撃無双はあまり効果がない。障害物が多すぎるのだ。
仕方がない。
近接戦上等だ!
傷は痛まない。
突っ張る感じもない。
よし、全開で行くかぁ~。
斜面を駆け下りながら、近くの木を斬る。
シュバッ!
小気味の良い音が鳴り、両断。
ニーナ、グッジョブだ。
バスタードソードも研いで鋭さが増し、柄のグリップも最高になじむ。
そのまま両断した木に後ろ回し蹴りを放ち、大群の先頭に弾き飛ばす。
勢いは緩めずに、オークどもの隊列に突っ込む。
前方に飛んでいく木に意識を持っていかれたオークを2体をまとめて叩き斬る!
その反動を利用しながら、周りの無防備な首をはねる、はねる、はねる!!
飛んでいった木が、先頭にいたオーク達数体を巻き込む時には十数体を無力化。
手を休めずにバスタードソードを振り回す。
斬!
斬!
斬!
蒼龍とは違う斬れ味の感触をおぼえながらも、敵が攻撃体制をとる前に鎧ごと、剣ごと両断していく。
高速で移動しながら敵を滅し、大群の外形を削いでいく。
何も考えない。
目で捉えたものに体が反応し、ただ斬撃だけを繰り返す。
スポーツならゾーン、格闘技ならトランスモードに入ったとでも言うべきか。
相手の動きがスローモーションに感じ、斬線が瞬時に浮かぶ。
無音になったかのような状態で、ただ反射のように攻撃をする。
不意打ちからの圧倒的な連撃。
仲間が瞬殺され、目に見えて激減していく状況に、オーク達は恐怖という感情に支配される。
監視役の2人は夢か現実かわからない状態に、ただ目の前のバーサーカーじみた男が敵を滅殺していく様子だけを、残影のように知覚する。
オーク達の阿鼻叫喚の地獄絵図。
そんな残酷な風景の中にいて、なぜかその男は返り血をほとんど浴びず、風のような舞いで斬撃を放ち続けていた。
黒い疾風。
そんな形容がしっくりくるような存在。
「··········ギルマス補佐。」
やがてミシェルがその存在の正体に気づき、つぶやいた。
「····えっ····あっ!ギルマス補佐。」
ミシェルの声を聞き、ケイガンもようやく我を取り戻した。
「すごい···。」
セティが思わずつぶやいた。
遅れていたスレイドとセティが現場に駆けつけた時には、すでに闘いが始まっていた。
オーク達の大群は報告よりもさらに増えていたが、今やその数は4分の1程度が無力化され、戦意を喪失させた物達は逃げ惑うように散ろうとしていた。
「セティ、隊列のど真ん中に魔法を放つんだ!俺は最後尾から攻撃をする。」
「わかったわ!」
500体規模の隊列のため、最後尾は100メートル程後方になる。スレイドはすぐに行動をおこし、斜面を横に縫うように走った。
セティはその場から炎撃を放ち、隊列の真ん中に直撃をさせる。
そこはタイガの攻撃によって逃げ惑うが、数が多すぎて互いの存在が障壁となってしまい、身動きがとれなくなったオーク達で溢れかえる状態になっていた。
最も密度が高くなった場所への炎撃は、数十体を巻き込み無力化する。
隊列の前方にいたケイガンとミシェルも戦意を取り戻して魔法を放ち出す。
ミシェルの氷撃が100以上の氷柱を生み出し、オーク達を串刺しにしていった。
ケイガンは風撃により、ミシェルの氷撃をサポート。氷柱で撃ち損じた個体にダメージを与えていく。
タイガの疾風のような剣撃に加え、3ヶ所からの魔法攻撃がオーク達の隊列を包囲し、みるみるうちにその数を減らした。
倒れていくオーク達が邪魔となり、さらに身動きがとれなくなった大群は15分と経たないうちに、ほぼ壊滅状態となっていったのだ。
「ギルマス補佐、助かりました。」
九死に一生を得たケイガンは、タイガに駆け寄り礼を言う。一緒に頭を下げるミシェルの目は、熱っぽい視線を帯びてタイガをじっと見つめている。
素敵···。
そんな心の内が表情に出ているかのような状態で、形容するなら目がハート状態となっていた。
「無事で良かった。闘いのすぐ後で申し訳ないが、オーク達を魔法で焼滅させてくれないか。」
「わかりました!私がやります!!」
ミシェルが勢い良く答えた。
タイガに自分の魔法の実力を知ってもらいたかったのだ。この恐ろしく強いギルマス補佐に、自分が守られるだけの存在ではないと。
長めの詠唱をつぶやくミシェルに、タイガ以外の3人が気づいた。
「えっ···その詠唱って···。」
「嘘だろ···。」
「ちょっ···ミシェル!それって強すぎ···。」
「メテオライト·ドライブ!」
ミシェルが掲げた手からは巨大な氷の隕石が出現し、オーク達が重なる場所へ一直線に加速をしていく。
ドッガーン!
その威力は凄まじく、地面は広範囲に削られ、爆風で木々がなぎ倒されていった。地響きと自然破壊の様を展開されたと言っていい。
魔法の発動が終わると、山の谷間だった空間はさらに広がり、別の景色へと変貌を遂げていた。
その様子を見て、タイガは内心で思っていた。
スレイヤーには、バカが多いのか···と。
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