第1章 14話 閑話 sideニーナ

いつものように鉄を打つ。


満足がいくまで鍛え続けることで、剣という武具を最上のものにしていく。


父に師事をしてからもう12年にもなるが、打ち手として本当に満足ができた武具は数本でしかない。


スレイヤーが活躍する街で店を開いているので、剣の需要は高い。


でも、ニーナが本当に打ちたいのは剣ではなく刀だ。


玉鋼から鍛え、美しい刀身に仕上げていく。


剣とは違い、高い技術がなければ打つことすらできない。父からは、刀で業物を打てたら一人前だとよく言われた。


ニーナが作りたいのは、上部から紙を落とすと刃の鋭さだけで2つに両断される、そんな業物だ。


刀の美しさに魅せられたスレイヤー、特に女性が刀を欲しがる。


でも売らない。


剣とは違い、使い手も高い技術が必要なのだ。


一度振っただけで折れたり、刃こぼれを起こさすような人には刀は使わせない。


この国で最強と呼ばれるアッシュに試し斬りをしてもらったことがある。だが、結果は同じだった。


それほどの剣士ですら、刃こぼれを起こさせる。


そもそも、剣と刀では扱い方がまったく違う。


レイピアなどの刺殺用の剣はともかく、自重で叩き斬るような一般的な剣の技術では、刀は何の意味も成さない。 


使いこなせる者が現れないだろうか?


ニーナは、自分が鍛えた刀の本当の斬れ味を知りたかった。




ある日、幼馴染みのリルが、1人の男性を連れてきた。


背が高く、細身。


体幹が強いことは、体の動きでわかる。


掌に独特のマメがあり、左手には特徴的な傷が微かにではあるが見てとれた。


心臓がトクンと普段よりも大きく鼓動する。


もしかして···。


「ふ~ん、これって刀を振ったことのある手だよね。」


思わず聞いていた。




タイガとの刀談義はおもしろい。


これまでは、父親くらいとしか刀についての話はできなかった。


剣が主流のこの大陸では、刀はマイナーすぎるのだ。


剣と刀の素材の違い、鍛造と鋳造、打ち手の技術。


会話の全てに、自分が欲しかった答えが返ってきた。




私が鍛えた刀を見せた。


一番最初にタイガが手にしたのは、基本的な刀。


彼の体格では刀身が短い。


そう思っていると、鞘から抜かずに重さだけを確かめるようにして、掛け具に戻した。


やっぱりわかってる。


彼なら私の一番を選んでくれるのではないか?そんなことを考えていると、次の刀を選んでこう言ってきた。


「これを試してみて良いかな?」


思っていた通り、期待していたものを選んでくれた!


「うん!」


タイガが手にした大太刀は、玉鋼にミスリルとアダマンタイトを混合させた合金でできている。


自分の技術の全てをぶつけ、苦労を重ねて作り上げた自信作だ。


8割は玉鋼がベースとなっているが、合金にしたことで、一段階上のしなやかさと強度を得ることが可能になった。


そして、鋭さが増した刀身は、仄かに青い色彩を纏う。


蒼龍。


そう名づけたのは、斬撃の際に蒼い龍が敵を喰らうとイメージしたからだ。


刀ではなく大太刀となったのは、合金のデメリットでコンパクトに成型することができなかったからだが、結果としてはそれがタイガという名手と出会うことになった。


それはもう運命というものだろう。


居合い抜きで青い稲光のように蒼龍を疾らせたタイガ。


試し斬りで直径20センチの丸太を断ち斬ったタイガ。


私は惚れ込んでしまった。


この男の剣士としての腕に。


そして···1人の男としても。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る