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 姫の意識が遠のいてきました。今姫の脳裏に浮かんでるのは準一。そう、侍従長でもなく、お側ご用人の2人でもなく、コマンダーでもなく、将軍でもなく、準一だったのです。

「準一、助けて・・・」

 しかし、姫の意識はあっという間になくなってしまいました。


 それからどれくらいの時間がたったのでしょうか?

「女王様!・・・ 女王様!・・・」

 と、必至に姫を呼ぶ声。ごほっ! ごほっ! 咳き込む姫自身。姫は薄っすらと眼を開けました。そこにあったのはヒャッハーな無骨な男の顔。それを見て姫は思わず悲鳴。

「きゃーっ!」

「女王様、しっかりしてください!」

「え?」

 この人、私に敵意はない? 姫がその男をよーく見ると、頭に兜がありません。グラニ帝国軍の兵は全員兜を被ってたのですが、今眼の前にいて自分を介抱してる男の頭には、そのようなものはないのです。代わりに顔中を埋め尽くす刺青がありました。

 姫は質問。

「あ、あなたたちは?」

「国境警備隊ですよ!」

 姫はびっくり。

「ええ?」

 見ると、この男以外にも数人の男の姿があります。全員顔に刺青があります。全員姫が調達してきた自衛隊の小銃を持ってます。そうです、彼らは国境警備隊。ぎりぎりのところで駆け付けたのです。

 彼らの足下を見ると、いくつかの死体が転がってました。その内の1つは、ちょっと前に姫ののどを潰そうとした兵です。どうやら姫が気を失ってる間に、全員国境警備隊に退治されたようです。

 国境警備隊のメンバーは全員安心した顔を見せ、つぶやきました。

「よかった・・・」

「ぎりぎり間に合った・・・」

 姫ははっとして立ち上がると、国境警備隊のメンバーに頭を下げました。

「ご、ごめんなさい!」

 姫の突然の行動に国境警備隊のメンバーは困惑。

「ちょ、ちょっと・・・」

「女王様、オレたちゃ下っ端です。そんな小さくならないでください!」

 姫は頭を下げたまま、

「あなたたちの棟梁は、私の盾になって亡くなりました」

 それを聞いて国境警備隊のメンバー全員に衝撃が。

「ええ・・・」

 その内の1人が、

「オレたちゃ、処刑されて当然の悪党でした。なのに先代の王様はオレたちを許してくれたばかりか、国境警備隊という役職まで与えてくれました。

 この国の王室はオレたちの命の恩人。オレたちゃ王室のためなら喜んで死ねます。親方もきっと本望だったと思います」

 彼らは元々山賊。2年前ノルン王国は隣接するスクルド王国と共同で、両国の国境線に横たわる嶮しい山で山賊狩りを行いました。スクルド王国側で捕らえられた山賊は、すべてその場で処刑されてしまいました。

 一方ノルン王国側では、当時の王自ら現場で陣頭指揮。捕らえられた山賊は現場で処刑すると思われたのですが、王は彼らを赦免。そればかりか、国境警備隊という役職まで与えてしまったのです。

 当時王の側近はその行為に強く反対しましたが、結果的に2年後の今実を結んだのです。先代王の先見性はかなりのものがあったようです。


 廊下。3人の小銃を持った国境警備隊員がにらみを利かしてます。長い廊下の向こう、角の陰には数人のグラニ帝国軍がいます。廊下にはいくつかの死体が転がってます。全部グラニ帝国軍兵士の死体です。

 今グラニ帝国軍の兵の1人が廊下の角から少し顔を出しました。

「ち、あいつら・・・」

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