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5人を乗せた舟が岸を離れました。舟は対岸へと進んでいきます。実はここは宮殿の裏手、宮殿をぐるっと囲む堀でした。
舟の舳先近くにはコマンダーが乗ってます。敵の奇襲が予想されるというのに、コマンダーは丸腰で突っ立ったまま。実は彼は、どこかに潜んでる可能性のある敵を探してるのです。暗闇の中、コマンダーの眼が鋭く光ってます。
舟の後ろには、お側ご用人の2人が乗ってます。この2人もどこからか襲ってくるかもしれない敵を見張ってました。この2人は身を低くした状態で小銃を構えてます。
2人の背後には、さらに身を低くした姫がいました。侍女は横目で後ろの姫を見て、
「姫、もう少しの辛坊を」
姫は応えません。
この堀の反対側は整備された森。一見誰もいないように見えますが、実は樹の陰に10以上の人影があります。全員弓を持ってます。グラニ帝国の間者です。侍従長が危惧してた通り、間者が潜り込んでいたのです。
間者のリーダー格の男は舟を見てニヤッと笑い、つぶやきました。
「ふふ、思った通り、こっから出てきたか!」
リーダー格の男は弓に矢を
「よーし、みんな、弓を構えろ!」
「了解!」
他の間者も全員弓に矢を
舟は岸と岸の中間点を過ぎました。女間者がそれを見て、横目でリーダー格の間者に合図。
「真ん中を過ぎました。そろそろ・・・」
リーダー格の間者も合図で返します。
「いや、まだだ。もうちょっと待て! もう少し岸に近づいてから・・・」
舟が反対側の岸の近くまできました。間者のリーダー格の男が色めき立ちます。
「よし、今だ!」
間者全員が一斉に幹から飛び出し、矢を射りました。はっとする姫とお側ご用人の2人。
「ええ!?」
開け放たれた扉から見ていた侍従長と近衛兵たちもびっくり。
「な、なんじゃ、あいつら!?」
姫は思わず両手で頭を押さえました。
「きゃっ!」
けど、姫に矢は飛んできません。その代わり、何か柔らかいものに無数の矢が刺さる音と、
「ううっ!・・・」
という悲鳴にも似たうめき声を聞きました。なんとコマンダーが身を挺して姫を守っていたのです。コマンダーは両手をいっぱいに広げ、踏ん張ってました。その身体には無数の矢が刺さってます。それに気づいて姫は唖然。
「ああ・・・」
「うぐぉーっ・・・」
コマンダーは吼えました。かなりしんどそう。思わず数歩下がりました。このまま下がると姫を踏んでしまいます。船頭(近衛兵)とお側ご用人の2人は、慌ててコマンダーの身体を支えます。
「だめ! これ以上は下がんないで!」
コマンダーはなんとか踏ん張りました。コマンダーは横目で今言葉を発した侍女を見て、
「か、かたじけない・・・」
開け放たれた扉から近衛兵たちが小銃を乱射します。
「あんにゃろーっ!」
間者たちは次々とその銃弾に倒されていきます。リーダー格の間者は慌てて樹の幹に身体を隠しました。そして倒れてしまった間者たちを見て、
「くそーっ! これが
舟は180度Uターン。元来た扉に向かいます。コマンダーはもはや動くことができません。仁王立ちのまま雄叫びをあげました。
「ぐぉーっ!」
姫は泣き顔でコマンダーのぶっとい脚にしがみつきました。
「お願い、死なないでーっ!」
コマンダーは眼下の姫を見て、
「姫、危険です! 身を低くしててください! お願いです!」
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