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 それらの人々が空中要塞のコントロールルームのモニターに映し出されてます。ブリュンはそれを見て、ナルヴィに話しかけました。

「皇子様、もう市中に声が流れてますよ、皇子様の声が」

「ん? あ? そ、そうか?・・・」

 ナルヴィは紙片を取り出し、それをチラ見しながらマイクに話しかけました。

「ああ、んん! ノルン王国の諸君、私はグラニ帝国第2皇子ナルヴィだ!」

 それを聴いて宮殿の部屋の中に籠っていた姫ははっとしました。

 ナルヴィの喧伝が続きます。

「我が軍が誇るこの空中要塞には、都市1つを1発で灰にしてしまう巨大な大砲が装備されてる。その気になればこの街なんか、一撃で木端微塵に破壊することができるっ!」

 それを聞いて市民たちは騒めきます。

「お、おい、オレたちを一気に焼き払う気かよ・・・」

 けど、コントロールルームにいるブリュンは別のことを思って、苦笑いしてました。

「あは、このバカ皇子、また大ウソをついてるよ。この要塞にそんな武器は搭載してないって。それ以前に、武器は1つも搭載してないだろって」


 一方ここは姫が籠ってる部屋。姫が机の引き出しを開けました。そこには軍用拳銃が。ブリュンの弟子ヒルデを殺害した拳銃です。姫はその拳銃を握ろうとしました。が、

「姫、なりませぬ!」

 突然の声。姫ははっとしました。


 街に響くナルヴィの喧伝。

「しかし、私にも温情というものがある。この街を破壊してしまうのは、なんとも忍び難いものがある。

 そこでだ、こうすることにした。この国の女王の首を持って来い! 首を持ってきたら、大砲を撃つのはやめよう! さらに首を持ってきた者には、グラニ帝国の貴族の地位を与えるようじゃないか!

 大陸のほぼすべてを手に入れたグラニ帝国の貴族の地位だぞ。こんなに高価なものは、この世にはほかにないんじゃないか?

 回答期限は24時間後、明日の朝8時とする! ノルン王国の市民の奮闘を期待しよう!」

 市民たちが騒めきはさらに大きくなりました。

「じょ、女王様の首を持ってこいって・・・ あいつ、本気か?」

「女王様はたくさんの近衛兵に守られてるんだ。オレたちにそんなことできるはずがないだろって!」

「それ以前にオレたちは、女王様の臣民だろ。女王様に刃を向けると思ってんのか!?」


 姫が籠ってる部屋。姫に声をかけたのは侍従長でした。侍従長の背後にはヒャッハーなコマンダーと将軍とお側ご用人の2人がいます。姫は侍従長に噛み付きます。

「じぃ、どいて! 私はあのふざけた男に鉄槌を下してくる! 準一の仇討ちよ!」

「姫の復讐心はよくわかります! けど、それはムダな行為です!」

「なんで? なんでよ! 私は箒に乗って空を飛ぶことができんのよ! あの要塞を貫通して内部に侵入することもできんの! あいつを殺すことなんか朝飯前よ!」

「姫、考えてみてください! あの要塞には数百、数千の敵兵が乗ってます。あわよくあの皇子を討つことができたとしても、ここに生きて帰ってくることは不可能です!」

「それでも・・・ それでも私は準一の仇を取りたい!」

「なりません!」

「いや! 私は行く!」

 説得はもうムリ・・・ 侍従長は意を決し、姫の頬を張りました。びっくりするコマンダーと将軍とお側ご用人の2人。

「ああ・・・」

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