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 姫は再び彫師に質問。

「あとどれくらいで終わります?」

「さあ、あと4時間くらい・・・」

「え、そんなもんで終わるの?」

「私は彫師と言っても、筋彫りという線だけの刺青しか施術しません。刺青にボリュームを出すシェイディングや色を付けるためのカラーという施術は行いませんので」

「ふふ。じゃ、そのまま続けて」

 それを聞いて準一は安堵の笑みを浮かべ、つぶやきました。

「よ、よかった・・・」

 姫は近くのイスに座り、

「私はここで見てるから」

 それを聞いて準一の顔は、今度は驚きに変わりました。

「え~?・・・」

 彫師とその助手も焦り顔に。

「え~・・・」

 こうして彫師は姫=女王監視のもと、残りの施術を行うことになりました。

 準一は時々傷みを感じるたび、

「痛てっ!」

 と声を漏らしそうになりますが、姫が見てます。自分は姫の護衛にしてフィアンセ。恥かしいところは見せられません。なんとか歯を喰いしばって我慢しました。


 それから数時間後、ここは晴天下のノルン王国の上空。街並みのすぐ上です。タンデムで箒に乗ってる姫と準一の姿がそこにありました。準一は背中に痛みを感じ、思わず声を発してしまいました。

「痛っ・・・」

 どうやら入れたばかりの刺青がインナーに擦れたようです。姫は横目で後ろの準一を見て、

「刺青が痛いの?」

 準一は照れ笑い。

「あはは・・・ そうみたい」

「それ、城の中の人には絶対見せないでよ」

「あは、やっぱダメなんだ・・・」

「この国では刺青を入れる人は、8割は娼婦よ。残りは男娼かジゴロ」

「あはは・・・」

「そういや、以前港に来た船員が、身体中いたるところにに刺青を入れてたっけ・・・」

「へ~・・・」

「刺青に寛容な国がどこかにあるみたい、この世界には」

「オレの国でも刺青は裏社会の人間が入れるものなんだけど、たくさん刺青を入れてる人がいる国もあるんだよ」

「ふふ、どの世界でも似たようなものなんだね」

「ところで、どこに行く気なの? やっぱDVDのとこ?」

「うん。また2話から見ましょ」

 それを聞いて準一はニコッとし、

「うん」

 準一はアニメオタク。たくさんのアニメを見てますが、その中でもパトロール魔女ジェニーはもっとも感動したアニメ。準一は何がなんでもフィアンセの姫にこのアニメを見てもらいたいのです。


 2人がDVDがある太陽光パネルのところに来ました。2人は着陸すると、準一はさっそくDVDプレイヤーのセットを始めました。

「姫、ちょっと待ってて」

 と、準一の背を見てた姫の顔色がここでふっと変わりました。何か悪いことを思いついたようです。

 姫は準一の背後にそーっと近づきます。そして準一の背骨のラインに人差し指をすーっと這わせました。その途端、

「うぎゃーっ!」

 準一は入れたばかりの刺青が痛かったらしく、思いっきり仰け反りました。次に姫に振り返り、珍しく怒りました。

「な、何するんだよ!」

「あは、マジ痛いんだ。

 よみがえりの魔法円て本当なのかなあ? マナの力がある人だけしか使えないなんて、なんかおかしいよ。

 マナの力を持ってる人は、この世界ではこの国の王、つまり、私だけ。私は誰のために、なんのために1度だけよみがえる必要があるの? よみがえりの魔法円なんて、完全眉唾ものだよ!」

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