62

「撮る方の機械があればよかったのに・・・ 撮る方の機械があったら、私と準一が初めてセックスするとき、つながったところを映して国民のみんなに見てもらいたかった・・・」

 準一はアニメ視聴に夢中になり過ぎていてその姫の言葉にまったく興味を示しません。またもや生返事。

「うん・・・」

 が、次の瞬間、その言葉の意味に気づいたようです。

「ええーっ!」

 と大きな声を発してしまいました。

「ひ、姫、何考えてんだよ! それはマズいって!」

「ええ、どうして?」

「だ、だって・・・」

 準一の世界の常識では、どう考えても今の姫の発言は異常です。けど、どうして異常なのか、それを説明するいい言葉が思い浮かびません。唖然とするばかり。代わりに姫が応えました。

「だって私と準一の身体が初めて結ばれるんだよ。私は女王よ。女王が初めて世継ぎのためにセックスするんだもん。国民にその証を見せないと!」

 歴史に興味がある準一は、マリーアントワネットの時代、王室では一般国民に初夜を公開してたと本で読んだことがありました。ここノルン王国もあの時代のヨーロッパのような国なのかもしれません。この国でも国王の初夜を公開してるのかも?

 でも、どっちにしろ準一の世界の基準からみたら異常です。

 準一は思い切って姫に質問してみました。

「王様や女王様の初夜て公開してるの、ノルン王国て?」

 姫は苦笑して、

「あは、まさかぁ」

 準一は安心顔。

「そ、そうだよね、あは」

「けど、私は準一を本当に愛してるんだ。本当に愛してるから、初めてのセックスはみんなに見てもらいたいんだ。私と準一は結ばれたんだって!」

 準一はまたもや唖然。けど、あることに気づき、姫に再び質問してみました。

「なんか姫はオレと結婚する気でいるけど、どう考えたってそれはムリだって。姫は女王様、オレはただの一般市民だよ。身分の差があり過ぎだよ!」

 姫はにやり。

「準一は大事な人よ。準一がいなかったらこのノルン王国は今頃、ウルズ王国に占領されてたわよ。準一はノルン王国の大事なヒーローよ! 私と結婚したってなーんの問題もないって!」

 ふと気づくとDVDプレイヤーの画面の中では、パトロール魔女ジェニー2話のAパートが終わってました。準一はこれを利用して雰囲気を変えようと考えました。で、映像を止め、

「あは、ごめん。もう1回初めから見よっか?」

 すると姫からは、期待とは違う応えが。

「いや、今回はここまでにしましょ」

 その反応に準一はびっくり。

「え?」

「実を言うと、今宮殿の中で王室会議が行われてるんだ」

「ええ、君、女王だろ? 主役がいないのに王室会議やってんの?」

「ルールでたとえ王様であっても、20歳にならないとその会議に出席できないのよ。なんか昔、18歳で会議中に大暴れちゃった王様がいて、それ以来ルールが変わったみたい。

 続きは会議の結果を聞いてから見ましょ」

 準一はパトロール魔女ジェニーが大好き。何度見ても飽きません。それゆえ途中で視聴を打ち切ることにはちょっと納得いかないようですが、会議の結果を聞いたらまた一緒に見られると聞いて安心したようです。で、

「OK」

 と返事。姫は立ち上がり、右手を前に着き出すと、

「箒よ!」

 と宣言。すると箒が出現し、姫の右手にその柄が握られました。姫は準一の顔を見て笑顔でうなずきました。

「さあ!」

 2人は箒に跨り、青空に浮かび上がりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る