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 準一は今度は、部屋のど真ん中に置かれた真っ黒い箱を見ました。30cm×30cmくらいの箱。箱は専用のテーブルの上に置かれてました。箱よりちょっと面積の大きい正方形のテーブル。さらに箱はドーム状のガラスに包まれてました。

 準一は箱の側に来て、姫に質問。

「姫、この箱は?」

「最期に見る本」

「ええ、何、それ?」

「箱の中には1冊の本が入ってるんだって。内容はノルン王国最後の日に読む本。読んでいいのは、その時の王だけ」

「じゃ、今読んでいいのは姫だけ?」

「けど、絶対読んじゃいけないんだって」

「なんで?」

「それを読むと死んじゃうから」

「ええ~?」

「ノルン王国最後の日に王は何をすればいいのかその本に書いてあるんだけど、それを読むと自動的に読んだ人に呪いがかかって、ジャスト24時間後に死んじゃうんだって」

 準一はびっくり。

「なんだよ、それ!?」

 姫は見てた本を書架に戻し、

「やっぱないみたい。仕方がないか・・・」

 姫は笑顔を作りました。

「じゃ、そろそろDVD見ようか!」

 準一は満面の笑み。

「うん」

 どうやら姫は、準一の心を汲んだようです。

 2人は箒に乗り、小さな図書館をあとにしました。


 ここは海峡の向こうの宮殿の大広間。ブリュンが床にひざまずいてます。その前には玉座のようなイスがあり、そこにナルヴィが座ってました。そう、グラニ帝国の皇帝の次男です。

「向こうの世界の魔法円を壊してきただと?」

「はい。これであの女王おんな、2度と向こうの世界に行けなくなりました」

「つまり、あの最新鋭の飛び道具は、2度と調達できなくなった、と?」

「それはなんとも言えませんねぇ。今回壊してきた魔法円は、同じ場所に何度も何度も着地するために作った魔法円。

 私は自分の意志で同じ場所に何度も着地することができますが、あの女王おんな、それができないようです。それで魔法円でマーキングしてたみたいですねぇ。

 けど、次元の壁を乗り超える魔法円はこの世界のどこかにあるはず。その魔法円がある限り、別の世界に行ってまた最新鋭の武器を調達してくる可能性があります」

「では、その大元の魔法円を消せばいいんだな?」

「あは、それはムリですよ。消されたらまた描き直せばいいのですから」

「そっかぁ・・・」

「あの女王おんな、場合によっては、私たちが使ってた空飛ぶ鉄の馬より強力な武器を調達してくるかもしれませんねぇ」

「それは困るなあ。ちっ、女王あいつ、眼の上のタンコブになってきたな・・・

 そう言えば、空飛ぶ鉄の馬と言えば、お前の弟子はかわいそうなことになったなあ・・・」

「ヒルドのことですか? ふ、あの、大した弟子ではなかったですよ。これを機にもっとマシな弟子を見つけることにしますので、ご心配なく」

 実はこれは真逆。ヒルドはあまりにも飲み込みが早く、一部の魔法では師匠のブリュンを越えてました。師匠が嫉妬してしまうほど成績がよかったのです。

 姫はヒルドの仇。それもありますが、姫は何をしてくるのか、不気味な存在でもあります。次にあいつに逢ったときは、いっそうのこと殺してしまおう。ブリュンはそう考えました。


 姫と準一が乗った箒が太陽光パネルの側に着地しました。

「ちょっと待ってて」

 準一はそう言うと、太陽光パネルの分電盤に右手をかけました。自分が大好きだったアニメのDVDを姫に見せられる。そう思うと準一はウキウキ・ワクワク・ドキドキです。

 けど、分電盤のふたを開けた瞬間、準一の右手に艶めかしい記憶が蘇ってきました。

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