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 姫はふと何かに気づきました。

「え?・・・」

 姫は失くしたものを捜すようにあたりをキョロキョロし始めました。準一はそれを不思議に思い、

「ん、どうしたの?」

「何か強烈なマナの力を感じる・・・」

「え?・・・」

 姫はふと上を見ました。そこにはブリュンが。びっくりするブリュン。

「ええ~ 気づかれた?・・・」

 けど、姫の視線はすぐに別のところに移りました。胸を撫で下ろすブリュン。

「ふ~ 偶然眼が合っただけか・・・

 ふふふ、そうだよね。あんな小娘に私の透明魔法が破られるはずがないわよね」

 姫。

「あは、準一が後ろに乗ってるせいで、マナの力の発生源がどこだかわからないや」

 この世界にはほんと、マナの力を持った人がたくさんいるなあ」

 さらに、

「準一よりもっと強いマナの力を持った人がこの世界にはたくさんいる・・・」

 と言おうとしましたが、その発言は控えました。

 姫と準一の前に巨大な魔法円が見えてきました。姫はそれを見て、

「じゃ、転移するよ!」

「OK!」

 2人を乗せた箒が魔法円の中心に突入。青い光のつぶに包まれ、そのまま吸い込まれるように消えました。

 ブリュンが乗ってる箒がすーっと下がり、魔法円の前に来ました。

「魔法円? ええ、何これ? こんなものでマーキングしておかないと同じところに来ることができないってこと?

 ふ、あの、すごい魔女だと思ってたけど、大したことなさそうね」

 ブリュンは30cmくらいの棒を持っており、それを軽やかに振りました。

「えい!」

 棒の先から放たれた魔法が魔法円に降りかかり、魔法円はバリンとガラスのように砕け散りました。ブリュンはニヤリと笑い、

「ふふ、これであの、もうこの世界に来ることはできないはず!」


 ここはノルン王国の宮殿。外は夜です。不格好な月が輝いてます。

 大広間では巨大な魔法円の中に姫と準一が立ってます。2人の回りに侍従長や巨漢のコマンダーや将軍たちが集まってきました。

「姫ーっ!」

 侍従長は姫の側に来て、

「姫のお蔭でたくさんの銃弾が調達できました。これで我がノルン王国は安泰です!」

 姫。

「どう、じぃ、1時間以内に帰ってきたでしょ?」

 侍従長は大きな時計を見て、

「はい、50分で帰ってきました!」

 準一は苦笑い。心の中で言い放ちました。

「おいおい、姫、あのままオレの部屋でセックスしてたら、1時間は軽く越えてたんじゃないか?」

 姫は準一を見て、

「ねぇ、準一、さっきのDVD、今から見ましょうよ」

「ええ? 今は夜だから、太陽光発電は使えないよ。あの機械は電気がないと使えないんだよ。この世界の電気って、あそこにしかないでしょ」

 姫は残念そう。

「そっか・・・」

 しかし、実はこの世界に設置された太陽光パネルには、蓄電池が併設されてました。見ようと思えば見ることができたのです。準一は本当に機械に疎いようです。ちなみに、姫や侍従長も蓄電池の存在を知りませんでした。

 姫は再び準一を見て、

「じゃ、寝よっか」

 すると侍従長が、

「姫、添い寝は禁止ですぞ。1人でご就寝ください!」

「あは、わかってるって」

 姫と準一が並んで歩き始めました。2人とも笑顔ですが、姫が突然はっとしました。

「あ?」

「ん、どうしたの?」

「魔法円が消えた・・・」

「ええ?」

「あなたの世界とこの世界をつなぐ魔法円が消えちゃったの・・・」

「それって?」

「準一の世界に行けなくなっちゃったのよ! どうしよう・・・」

「オレは別に構わないよ。オレは父親殺しだ。元の世界に帰れなくなったって、それはそれで本望だよ」

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