32

 時間は少し遡ります。今は午前中。ここはノルン王国首都イザヴェル、その郊外。畑の中に住宅が点在してます。その中を姫と準一が箒に乗って空を飛んでます。準一は地図を見てます。

「姫、もうちょっと先だよ」

「OK!

 この世界では初めてかな、準一と箒に乗るのって?」

「うん、そうだね」

「前一緒に乗ったとき、私の髪の毛、気にならなかった?」

「え?」

 準一は自分の世界であった出来事を思い出しました。

 ヘリコプターから逃げる姫と準一。アスファルトスレスレで街道を飛んでるとき、姫の長髪が走行風圧で舞い上がり、準一の顔を覆いました。

 現在の準一。

「あは、君の髪の毛がオレの顔をズボッと覆ったっけ」

「やっぱり・・・ 私、髪の毛切っちゃおっかな?」

「え? もったいないよ・・・」

 ここで地図を見てる準一はあることに気づきました。

「あ、姫、ここだよ」

「OK」

 2人が乗った箒がゆるやかな螺旋を描いて降下。2人は地面に降り立ちました。姫は近くにある家のドアに向かいました。そしてドアをノック。すると家の中から声が。

「はーい!」

 ドアが開きました。顔を出したのは40代て感じの女性。

「なんですか・・・」

 女性は姫を見てびっくり。

「あ、あなたは女王様?」

 姫は大きな帽子を取り、深くおじぎをしました。

「突然の訪問で失礼します。今朝早くグラニ帝国軍が我が国に攻めてきました」

「あ、我が国の軍隊がせん滅したと聞きましたが?・・・」

「その戦闘の最中、あなたの息子さんは戦死しました」

「ええ・・・」

 女性は雷に撃たれたようなショックを感じました。姫は言葉を続けます。

「私の背後にいたスクルド王国軍の兵たちが裏切って、私に武器を向けました。あなたの息子さんは私の盾になってくれました。あなたの息子さんは私の命の恩人です」

 女性は両眼から涙を流し、

「あ、ありがとうございます。私の息子は志願兵です。国のために戦死するのが兵士の誉だと言ってました。女王様を守って戦死したのなら、本当に誉です」

「もう少ししたら軍から正式な報告が来ると思います」

 姫は再び深く頭を下げ、

「短いですが、これで失礼します。ありがとうございました」


 姫と準一が箒に乗りました。前に跨った姫。

「行くよ!」

「OK!」

 2人が乗った箒が飛び始めました。飛行中、準一は後ろから姫に話しかけました。

「なあ、姫」

「ん、何?」

「ただの一兵卒だろ。なんで姫・・・ 女王自ら謝罪に廻ってんだ?」

「私、初めて見たんだ。人が殺されるところを。あは、敵が無残に殺されていくところは喜んで見てたクセに、自分の国の兵隊が殺されるところはショックだった。私が出しゃばって戦場なんかに行かなきゃ、あの人たちは死なずにすんだのに・・・

 親族に直接お詫びしないと、自分の気が休まらないんだ」

「優しいな。君が国王でこの国の人たちはとても幸せだよ」

「あは、そう?」

 準一は地図を見て、

「さーて、あと1人だ」

「うん」


 小さな女の子とその母親らしき人物が道を歩いてます。女の子の眼がふと空を飛ぶ姫と準一を捉え、2人を指差しました。

「お母さん、あれ、な~に?」

「あ、あれは女王様?・・・」

「え、女王様?」

「この国の一番偉い人よ。

 もしあの人がいなかったら、今頃ここはグラニ帝国に占領されてたかもしれないわね・・・」

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