28

 この光景を岸から単眼鏡で見ている将軍。

「うむ、またUターン?・・・ ふむふむ、なるほど、そうか!」

 将軍は大きな声をあげました。

「皆の者、鎧を被った兵を撃て! 兵を撃てば、残りは忠誠心のない奴隷ばかりだ! あとは勝手にUターンして帰るぞ!」

 その命令は要所要所に配置された将校によって端へ端へと伝えられて行きます。これによってノルン王国軍の兵たちの照準は、鎧を被った兵に集中しました。

「くそーっ、やつら、オレたちを狙ってやがる・・・」

 グラニ帝国の兵たちもそれに気づき、身を伏せます。が、戦況を確認しようと少し顔を上げた瞬間兜に銃弾が命中。兜は肉厚が足りないらしく、銃弾が貫通。脳みそが吹き飛びました。

 さらに手漕ぎボードが砂浜に近づくと、銃弾がボートの側面を貫通するようになりました。兵たちはさらに餌食になっていきます。

 それでもグラニ帝国軍人の矜持か、手漕ぎボードは前進を続けます。


 侍従長が姫に話しかけました。

「姫が調達してきた兵器、とんでもない威力ですな」

「ふふ」

 姫の顔が赤くなりました。

 準一の頭が突然ピーンと反応しました。

「あ、そっか、わかったぞ、姫の周りにオレたちを配置させた理由が!」

 準一は振り返り、小銃を撃ってる兵たちを見て、

「銃が暴発したり、手元が狂ったときのことを考えて、ここに配置させたんだ!」

 侍従長が微笑んで応えます。

「ふふ、左様」

 準一は今度は姫に話しかけました。

「しかし、こんなにたくさんの小銃をこの世界に持ってくるなんて、君はいったい何回オレの世界に行ったんだ?」

「う~ん、9回」

「え、たった9回?」

「けど、この武器を仕入れてきたのは7回目と8回目と9回目だけよ」

「ええ、それだけで? どうやってこれだけの数を仕入れてきたんだ?」

「ふふ、私は魔法使いよ。これくらい、簡単簡単」


 小銃を撃ってる兵の1人があることに気づきました。

「ん?」

 兵は振り返り、報告。

弾丸タマが尽きました!」

 他からも弾丸が尽きたとの報告多数。けど、手漕ぎボードはいまだ数十隻残ってます。その中の1隻。リーダー格の兵は身を低くしてますが、

「ん、んだ?」

 と言って、立ち上がりました。

「よーし、みんな、この機に乗じて一気に上陸するぞ!」


 砂浜。突っ込んでくる手漕ぎボートを見て巨漢のコマンダーが、

「いよいよ自分の出番が廻ってきたかぁ!?~」

 コマンダーは巨漢を揺らして移動を開始。すると姫の身体が後方から見えるようになりました。それを見てスクルド王国軍の兵たちは、ニヤッと不気味な笑みを浮かべました。

 コマンダーは近くに置いてあった細長い金属製の箱に手をかけ、開けました。その中身は・・・ 対戦車砲(110mm個人携帯対戦車弾)でした。それを見て準一はびっくり。

「ええ、ロケット砲? そんなものまで盗んできたのかよ!?」

 コマンダーが構えた対戦車砲が手漕ぎボードの1つを捉えました。銃爪ひきがねにかかるコマンダーの指。ニヤッと笑うコマンダー。

「よい来世を!」

 ドビューン! 対戦車砲発射。発射されたロケット弾が手漕ぎボードの1隻に向かって一直線。そして・・・

 ドバーン! 手漕ぎボードが大爆発、木端微塵。乗員が宙を舞います。

「うぎゃーっ!」

 砂浜に布陣されたノルン王国軍の数箇所から同様に対戦車砲が次々と発射され、10隻以上の手漕ぎボードが破壊されました。ちなみに、この対戦車砲、使い捨て方式。1発しか撃てません。

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