が、侍従長はすぐに気づきました。少女の紺色の衣装のあちらこちちら、特に左脇に血がたくさんこびりついてることを。少女は右手で左手の二の腕を押さえてます。左手のその先は、まったく質感がありません。袖がだら~んと垂れ下がってます。

「ひ、姫、左手は?」

 少女は振り向き、侍従長に苦笑いを見せました。

「あは、やられちゃった」

 侍従長は少女に駆け寄ります。

「な、なんてことを!・・・」

 巨漢のコマンダーも駆け寄ります。

「姫ーっ!」

 先に駆け付けた侍従長が、少女のボロボロになった左手の布を見ました。そこからはみ出た少女の二の腕は、切断され、その箇所で棒のようになってました。侍従長はそれを見て愕然。

「な、なんておいたわしい・・・」

「大丈夫。向こうの世界の人からたくさんのマナの力をもらったから、もう元気!」

「しかし、これはとんでもない大けがですぞ! わかってるんですか? 片腕のまま一生生きなければいけないんですぞ!」

 コマンダーが怒ります。

「くそーっ、いったいどこのどいつだ、姫の大事な腕を奪ったヤカラは? ぶっ殺してやる!」

 少女は笑顔を見せ、

「あは、あなたじゃ絶対ムリよ」

 コマンダーは驚きました。

「な、なんで? 自分にできないことはありませんよ!」

「相手は空飛ぶマシーンに乗ってるのよ。とても勝てる相手じゃないわよ」

 それを聞いて焦るコマンダー。

「うう?・・・」

 侍従長。

「姫、もうこんなムリなことはやめてください! 武器はもう十分に調達できました!」

「ごめん、もう1回行かせて!」

 侍従長はびっくり。

「ええ・・・」

 侍従長は毅然とし、

「ダメです! 次行ったら、今度は生命いのちまで獲られますぞ!」

 少女はマナの力をくれた男性を思い浮かべました。

「私にマナの力を与えてくれたあの人。あの人ならきっとこの国を守ってくれるはず。私、あの人をスカウトしてくる!」

「ああ、もう、何度言えばわかるんですか? 姫!」

「私は行くと言ったら行くよ! けど、今日は疲れたなあ・・・ 血も足りないみたいだし、何か食べたい・・・」

 侍従長はお側ご用人の2人を見て、

「お前たち、姫を!」

 2人は応えます。

「御意!」

 2人は少女の側にきて、うやうやしく身を低くしました。

「さあ、お姫様」

「あは、私、疲れてるんだ。お姫様抱っこしてくれない?」

 侍従はちょっと考え、そして侍従長を見ました。

「よろしいですか?」

「姫はお疲れじゃ。仕方がないじゃろ」

「御意!」

 侍従はひょいと少女をお姫様抱っこ。侍従の胸の中で少女は途端に赤くなりました。

「あは、初めて抱かれちゃった」

 侍従長は侍従を見て、

「食事の前に医務室に連れていくんだ」

「御意!」

 侍従長は今度は侍女を見て、

「お前は食事の用意を」

「御意!」


 宮殿の幅広の廊下を歩くお側ご用人の2人。侍従は胸の中で少女が眠り込んでしまったことに気づきました。

「ああ、お姫様、寝てしまったか・・・」

 侍女が応えます。

「廊下に出た瞬間寝てしまったようね」

「疲れていたんだろうな、きっと・・・

 こんなボロボロになって帰ってくるなんて、いったい何があったんだろう?」

生命いのちを賭けてまでも国を守らなくっちゃいけないなんて、王室に生まれるって大変なことなのね・・・」


 朝。快晴の空。すでに太陽は高く昇ってます。ここは我々の世界。昨夜少女が運び込まれた家。その1室。窓の外の光景から見て、ここは2階のようです。いまいち整理されてない室内。机があり、その上にはノートパソコンが置いてあります。

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