最終話 新たな旅路
――脱出
俺と魔王は叫び声に合わせて、閃光の魔法が封じられた魔道具を発動した。
光でみんなの目を眩ましている間に、予め用意していたカーテンで作ったロープで、しゅるる~と一階に降りる。
そして、防御魔法の宿る魔道具で身を包み、一階の部屋に隠れ安全を確保したところで、残った魔道具を爆発させた。
とことん派手に爆発させる。テラスを跡形もなく吹っ飛ばす。
とにかく、すんごい戦いのように見せかける。
戦いの場は魔道具の魔力片で満たし、魔力の探知能力を妨げていたので、俺たちの動きは誤魔化せただろう。
そして、一か月ほどが経った。
人間と魔族は一時的な休戦協定を結んだと、俺たちは風の便りに聞く。
休戦には勇者一行と四天王が尽力したらしい。
世界のトップクラスの強者たちが、敵味方を越えて協力し動いた。
これには双方の陣営も、矛を収めないわけにはいかなかったようだ。
巷では、平和を呼び込んだ勇者と魔王を讃える声が響いているそうだ。
「なぁ、魔王。吟遊詩人が俺たちを讃える歌を酒場や街角で歌ってるってさ」
「フッ、我らのことは良き歴史として刻まれることになるだろうな」
「代わりに、全部失ったけどな」
「お前のアイデアだろう。いまさら後悔しても仕方がない」
「そうだけどさ~」
俺と魔王は戦後処理のどさくさにまぎれ城を脱出し、今は二人肩を並べて街道を進んでいる。
「さ~て、これからどうするかね? 帰る場所もないし」
「遥か西にある大陸を目指そう」
「ん、どうして?」
「西の大陸には魔族や人間とは違う種族が住んでいると聞く。そこでならば、我らの居場所が見つかるかもしれん」
「我らの居場所ねぇ~。なんで、勇者の俺が魔王と……」
「仕方なかろう。お互い、いまだ力が戻らぬのだから。二人で行動した方が生存率は上がるぞ」
「ま、そうだな。それにしても、いつになったら戻るんだ?」
「わからん。だが、戻るのを待っているのは飽きた。私はこれからLVを上げていこうと思っている」
「ん?」
「我らは魔王に勇者だ。才が消えたわけでない。これからLVを上げて行けば、昔のような力を取り戻せるはずだ」
「あ~なるほど。また、一から出直すことになるのか。しゃーない、頑張るか」
俺は軽く背伸びをして、前を歩き始める。隣には宿敵であった魔王が並ぶ。
……と、その時、茂みから世界最弱のモンスター、いつものスライムが飛び出してきた。
そいつの表面にはご丁寧にLV5と書いてある。
「スラ、スラスラ」
「ま、まおう! スライムだぞ! しかも、LV5!? 今の俺たちじゃ、美味しく食べられちゃう!!」
「クッ、このままではスライムの溶解液で我らはLV1でありながら、全裸のLVがマックスになってしまうな!」
「それ本気で言ってんの? 冗談なの? どちらにしても面白くねぇよ!! 逃げるぞ、魔王!」
「スライム如きに背を見せるとは、なんと情けない!」
「グダグダ言ってないで、逃げろ逃げろ!」
二人は西の大陸を目指して、街道を駆けていく。
のちに、この二人は西の大陸で大活躍をするのだが、それはまた別のお話。
「スララ~」
「やっべ、魔王。パンツの部分だけ溶かされた!」
「馬鹿、近づくなっ。私のまで溶かされるだろうが! 離れろ!!」
ラスボス直前でLV1に!?~LV1勇者 VS LV1魔王~ 雪野湯 @yukinoyu
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