第5話 VS魔王
付き人に背中を押され、魔王の部屋に放り込まれてしまった。
背後の扉は固く閉じ、俺は恐る恐る前を見る。
「よく来たな、勇者よ。私が魔族を束ねる王。魔王である」
巨大なステンドガラスを背後に置く玉座から、魔王がゆっくりと立ち上がった。
俺は力を見透かされぬように精一杯の虚勢を張り、背筋をピンと伸ばす。
(何とか、時間稼ぎを……って、ここまで来たら、もう無理かっ!)
もはや、死を覚悟して、魔王へ顔を向ける。
その魔王は何故か闘気を纏うことなく、静かに佇む。
そして、俺と視線を交わし、次に戦場を見つめるように遠くへ視線を投げた。
「戦場ではいま、多くの者が命を散らしている」
「ん? ああ、そうだな」
「そこには若い命もあろう。未来を謳歌できるはずだったはずの命もあろう」
「んん? そう……だな?」
「そこでだ、停戦……というのも、悪くはないのではなかろうか?」
「はい?」
「いや、突飛な申し出なのはわかっている。だが、世界の未来を考えれば、種族の存亡をかけた戦いよりも、違う種族同士が手を取り合う未来の方が良いのではないかと、急に感じたのだ」
「はぁ?」
突然、魔王は何を言ってんだろうか?
言葉を額面通り受け取れば、こいつは戦う気がないと見える。
こっちとしては、非常に都合が良いのだが、素直に受け取れない。
俺は魔王を観察するように覗き込む。
「な、なんだ、勇者よ?」
魔王の身体が小刻みに震え、妙に落ち着きがない。
その居住まいは威風堂々から程遠く、小心者の怯えに感じる。
とても魔王とは思えない態度。
俺は首を伸ばすように、さらに覗き見た。すると……。
「おや、あれは……魔道具?」
玉座の背後に、魔法の力を宿した道具がたくさん転がっている。
「なんで、魔道具があんなに?」
「こ、これか? これはだな……勇者、貴様を試してみようと思い、用意したのだ」
「試す? いまさら、魔道具ごときで勇者である俺を?」
魔道具はかなり強力な道具だが、勇者や魔王クラスの前では子供のおもちゃに等しい。
それを試しに使うなど、到底納得がいかないもの。
「魔王、何を考えている?」
「な、なにって、え~っと、そうだ。余興だ、余興! 我々がぶつかり合えば、血を血で洗う戦いが始まってしまう。その前に、少し遊んでやろうかと、な。うん」
「うう~ん?」
俺は眉がひっくり返るほど眉を折り曲げて魔王を見つめる。
魔王はワタワタと焦りを見せる。
この様子、最近見た気がする…………そう、今の俺の様子にそっくり。
「まさか、魔王。お前もLV1に?」
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