第4話 背中を押さないで
――魔王の部屋の前
無駄にでかい扉前で俺は棒立ちしている。
「入ったら、おしまいだよね~。仲間の誰かと合流するまでここで待ってるか……」
「ゆうしゃ……」
「うわっ、だれっ!?」
廊下の奥から声が響く。
目を凝らしてみると、そいつは魔王のお付きだった。
「お前は、魔王の付き人。まさか、お前が俺の相手を?」
「滅相もない! 私は弱小魔族。とてもではありませんが勇者の相手なんて……」
「だったら、何の用?」
「お願いの儀がありまして」
「願いだと?」
「お察しの通り、魔王様は一対一での対決を所望しているのだと思います。そのために四天王を分けたのでしょう。私としては、あの方の願いを叶えてあげたい。だから、このまま一人で扉の先を進んで頂きたいのです」
「しかし、それは……」
「勇者。あなたは魔王様の意を汲み、仲間と別れ、単身でここまで来たのではないのですか?」
「え……まぁ、そうですけど……」
「ならば、何卒、何卒!」
「……もし、嫌だ。仲間を待つ~って言ったら?」
「その時は刺し違えてでも、あなたを扉の向こうへ!」
付き人は懐からギラリと光る刃物を見せた。
普通なら雑魚同然の付き人も、今の俺ならあっさり殺されてしまう。
「わかった。君の魔王を思う心に応えよう」
「さすがは勇者! では、扉をお開けください」
「扉を、開けるの?」
「はい」
「どうやって?」
「え? 押せば開きますが」
「いや、扉が大きいだろ。重くて開きにくいんじゃないかなぁ、と思うわけでありますよ」
「いえいえ、見た目は重そうですが軽い素材でできてますから、子供でも開けられますよ。それに勇者ならば、たとえ重くても簡単に開けられるでしょう?」
「ふぅ~……そうだな、開けられるとも。だが、開けた先に魔王がいるわけだな」
「ええ」
「やはり、開けない方が、いいんじゃないかな?」
「え、なぜ?」
「この扉が開けば、血で血を洗う戦いが始まってしまう。もちろん、君の主を傷つけることになる。それは恐ろしいだろう。そのような恐ろしいことが起きて良いものか……」
「ふふ、勇者という者は本当に優しき存在のようで。ですが、たとえこの先にどんな恐怖が待っていようと、私は如何なる出来事も受け入れる準備ができております。では、さぁ、さぁさぁ」
「え、ちょっと、背中押さないで。ちょっと、待てって。や、やめろ~!」
ずんずんと背中を押され、身体ごと魔王が待つ扉の向こうに放り込まれてしまった。
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