第6話

——。


 そうして時は過ぎて三日の後、騎士王は死んだ。


私たちが作った薬を飲んだ翌日に騎士王が死んだ。



「これより、木枯らしの魔女ガーベラの異端審問を開始する」


——愚かな事だ。全く以って愚かな事だ。

——夢に現を抜かしておった。


「何故、王を殺した」

「何故、王を殺した」

「魔女め」

「卑しき魔女め」

「魔女め」

「魔女め」


 暗がりの地下と思しきレンガの湿り気を、三つか四つの証明が照らす部屋。

首と両手に繋がれた鎖が私の温度を吸い取る中で、彼らは壇上の高みから私を見つめ各々に蔑みの眼を降ろす。


「……異端審問とは、笑わせてくださいます。言葉の意味を間違えておいででは?」


なぜ私がこうなったかと答えるならば、騎士王が死んだからと言う他ない。


騎士王が殺されたからと言う他ない。


「立場を弁えろ。貴殿に自由な発言の機会を与えてはいない」


「ふふふ、なれば何も聞かず首を跳ねて偽りの事実を作れば宜しい」


木槌を持つ最高判事の様相で顔を薄布で隠す老人の諫めを見上げ、かび臭い牢にて汚れたドレスを尚も着込む私がボサボサの髪で放つ言葉は我ながら拗ねた悪童のようである。


「黙れと申しておる」

そんな私に冷たい一言が木槌と共に降ろされて。


だから私は——

「審問などと言わず、女を辱め、玩具にしたいと申せばよい。神に仕える誇り高き騎士様なら許される事もありましょうや」


増々と、憎々しい口ぶりで、偉ぶる男を小馬鹿にわらう。呆れで項垂うなだれる顔の口角を少し持ち上げ、首の鎖を鳴らして見せて。


すると男はらしく怒号を上げるのだ。

「ソヤツを黙らせろ‼」

「……っ‼」


家来か配下か、部屋の入り口に控える巨躯の男どもに指示を出し、首に繋がる鎖を引かせる始末。まるで家畜を躾けるように。


全く以って、何処まで私を馬鹿にしたものか。


「分かっておりますよ……私には全て」


ああ痛い、痛々しくて肩が凝る。男の力で引かれる鎖に首を絞められながらも足に踏ん張りを利かせ、態勢を整える不格好。それでも沸々と私の胸の内に燻る怒りの火種が、まず煙の昇らせるように尚も言葉を呟かせた。


「騎士王が魔女に呪い殺されたという大義名分を用い、王が結んだ休戦協定を一方的に破棄するが狙い」


「何を申すか、証拠もない。魔女である事を隠していた貴様が王の病を治すと若き騎士を魔術を用いて騙し、戦で失った夫の復讐の為に魔法使いの国らの企みに乗り、王に毒薬を飲ませた事は判っておる」



「おぞましい」

「やはり魔女など信用できん」


なれば貴様らが信用できる根拠はいずこか。おぞましいのはどちらの方か。などと思い付く調は幾多もあったが、まず真っ先に言わねばならない。


「——愚かな。そこまでして戦争の日々に戻りたいのですか、ねぇ? ピーター様」

「……」


——ピーター、やはりアナタもそちら側であったのだな、と。


「ふふ。王を、国を、守るべきものを、気に入らないからと斬り捨て、アナタ方に何が残ろう」


フードを被り、或いは仮面を身に着け、顔を隠し私を見下ろす男どもの傍ら、薄暗い影の中に居る男に向けて私は笑い、そして嗤う。


「各々の顔を見てみなさい。何と醜いものであろうか、イグニスが——私の夫がこのような醜悪な化け物共の為に死んだなどと笑わせてくれる」



淡い照明に彩られた寂しげな舞台の中で一人芝居を強いられて。


——私は、観客に向けて演舞の主題を問うように語った。

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