第3話
やがてやがてと辿り着くは、王城の中でも一際、
「ガーベラ殿、この国で随一と名高い薬師である貴女様に見て頂きたい患者とはコチラの騎士王様であらせられます」
「……」
歴戦の猛者、賢王。周辺諸国に圧政を敷いていた魔法使いの国に反旗を
天蓋付きのベッドの周りに控える臣下の数を見てみれば、政争の薫りはすれど権威と人望が窺えると言っても語弊は無し。
ただ、惜しむらくは——
「なるほど。休戦から暫く、騎士王様のお姿が民衆の前に現れなかったのはその為ですか」
彼や彼らに対して私は些かの敬意を持ちえないという事だけは確かな事なのである。
「貴様‼ 不敬であるぞ‼」
このような粗暴な者どもに敬意など感じようものか。腰の鞘から剣を引き抜く武骨な
どうせ女は食い物と、言葉の一つも交わせないのであろうて。
「不敬とは如何ばかりか、何も分からぬ未知の病の前にゾロゾロと
「なにぃ⁉」
それでも私は人として、粗忽な獣と語らおう。
一歩前にと踏み出でて——首を斬りやすいように上向きに。
「折角の休戦、国民にようやく訪れた一時の平穏……それを国の中枢たる騎士様方が未知の病を広げてしまっては台無しというもの」
「窓も締めきり、人が集まり、兎にも角にも空気の悪い。これでは如何に健康であろうと病気になってしまいます。病に伏している方なら尚の事」
「——⁉」
淀んだ室内の空気に逃げ場はなく、ざわつくヘドロがどよめくばかリ。
「窓を開ける人員、王の世話を行う人員以外は、この場から一刻も早く出て行きなさい。邪魔以外の何物でもない」
「ぶ、無礼な‼ 今すぐに斬り捨ててくれる‼」
その内の一人が、耐えきれずに剣を抜いた。
その時である。
「——辞めよ。無礼とはそなたらの今の振る舞いであろう……」
天蓋から降りたる帳の向こう、老体のしわがれた声が響く。
とても弱々しくも、精悍な声。王たる威厳。
「騎士王‼ お目覚めに‼」
一斉にひれ伏すように、歓喜を呼び起こされたが如く湧き立つ臣下たち。
「何の非も無い……病と国を憂う淑女の忠言に対し、そのような振る舞い。騎士として恥を知るがいい……」
背筋を伸ばし、我ながら凛と佇む私に向けてか、帳越しにも有り余る威圧が言葉に乗って肌を突く。
——王。歴戦の騎士王。
そんな王の言葉を聞き、その場で誰よりも早く動いたのは私の傍らに控えていたピーターであった。
「——騎士王……王のお言葉です。ガーベラ殿に何の非も無く、今すぐに窓を開け、不必要な方は失礼ながら、この部屋から出て頂きたい」
私の一歩前に出でて、帳の向こうの王に跪き、彼は周りの臣下を無機質に睨むように見上げる。
「ピーター……貴様‼」
周りの臣下の想いは如何ばかりであったろうか。我こそは忠臣と
さりとてこの場は王の御前、王の言葉を肯定したピーターの言葉に声を荒げれば、それは王への反逆の証とも取られかねない悪状況。
皆一様に苦虫を噛んだが如き顔色。王というより若造に諫められた形で、周りの臣下は私やピーターを恨めしく睨みながらゾロゾロと部屋を後にしていく。
そうして——その場に残るはピーター含める数人の従者と、私と、騎士の王。
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