第12話
続く第2ラウンドのステージとなった〈ブラッドハウス〉では、運良く勝つことができた。
高低差がほとんどなく、アバターの腰から背丈くらいまでの壁が乱立する迷路のようなこのステージで、壁抜きができる
『さて予定より少し早いですが、ここで一旦休憩を挟むことになります。その前に現在の順位を見てみましょう』
司会の進行に伴い会場の中央にあるスクリーンに順位表が映し出される。
『かなり一方的な試合になっちゃってますねー』
誰もが思ったことを代表して……いや、現状を確認するようにバルが言った。
『5位以下が団子状態で4位3位が僅差で頭1つ抜けてホーセン率いる〈LS:Bチーム〉。そしてまさか唯一の2人パーティー〈ネイレイ〉が単独首位に出ています!」
『1ラウンド目で普段のプレイができた僅かなチームがポイントを占有できたのと、2ラウンド目のステージが壁抜きマップで有名な〈ブラッドハウス〉だったのが、原因ですね』
『たしかに順位を見る限り初戦で実力を振るえなかったものの、次戦で持ちなおしたチームはARと
『ネイタンがやられたように機動力特化の
『それでは、これより1時間のお昼休憩に入りたいと思います。現在カフェテリアが混雑しているため、出場者の皆様は時間にご注意ください』
と、司会の男が締めくくりプツッ――とマイクの音が切れた。
プレイヤーたちは各々席を立ちチーム内で話し合ったり、あるいは他のチームの奴と談笑したり、はたまた昼休み中も練習するのか席を立たずパソコンと睨めっこしている連中までいた。
「コラボPCなんて情弱用の低スぺなんだから休ませてやれよ」
周囲の人間がバラけるまで周りの様子を観察していると、横の男がヌッと立ち上がりどこかに行くかと思いきやオレのガタイの良い身体をオレの方に向けて動かなかった。
用でもあるのか? とそちらに首を回すとギラついた……エントリーを済ませた時にバルから向けられたものとは別種の敵愾心の籠った双眸があった。
やることなすこと全てが理由もなく気に入らんという、その目をオレは知っている。いっそ馴染み深いともいえよう。なにせ常日頃から有象無象のキッズから向けられているものなのだ。
「オレに何か?」
わざとらしく丁寧な口調で問うてやると、現在第2位のチームを率いる男ホーセンは、より一層眼力を強めて言う。
「俺はお前を認めない」
「別にアンタに認めてもらう必要ねーだろ。人のプレイにケチつけるとかダセェぞ」
「っ……老害が」
いったい何がしたかったのか、ホーセンはそう吐き捨てて踵を返していった。
もう1度辺りを見渡すと何人か観客が手を振っていた。振り返してみる。キャーっという黄色い歓声が上がった。めっちゃホクホクする。
コレは割とよく聞く話だが、WeTuberはオフ会で金銭的に得をすることがない。むしろ大損である。
会場費やら設備、スタッフまで全てWeTuber本人の自腹か事務所が払う必要があり、それらの元を回収するだけでも参加費を馬鹿高くしないといけない。当然参加費が高ければ人数が減る。特に万単位となれば高校生以下の視聴者は切り捨てるのと同義になる。
そもそも参加費安くても当日のキャンセルでこちらが割を食わなければならない。挙げれば百害くらいあるんじゃなかろうか。
が、それでもある一
点たしかな利がある。
知名度が高くなる? 否。
新規視聴者の開拓? 否。
そもそもオフ会は元からそのWeTuberを知っている奴が参加するのだ。知名度も新規視聴者の開拓もまるでできない。
オフ会は――――ホクホクするのだ。
普段は携帯やパソコンの画面越しにだらしない顔で見てる視聴者が目の前にやって来て、自分にキラキラとした目を向けながら「いつも見てます」とか「好きです!」とか言ってチヤホヤしてくれるのだ。
しかもその場には〈アンチ〉が存在しない。
やれ面白くない。やれRayは変わった。やれ金の亡者などのアンチコメンとは匿名という完全な安全圏から発言できるからこそ行われるものだ。学生時代でも嫌いな奴の悪口を言う時は仲間内のような、自分が言ったことが絶対にバレない小さなコミュニティだけで大多数はやっていただろ。それと一緒だ。
面と面を合わせて場合によっては身分や本名、ニックネームを確認するオフ会にアンチは絶対参加しない。
しかも参加費まで払う必要があるのでなおさらだ。もし金まで払ってきて陰口言いに来たらむしろファンだ。雑談動画1本分のネタになる。
故にオフ会は主催者たるWeTuberの最たるメンタルケアだとオレは考える。身も蓋もない言葉にしてしまえば自慰行為だ。
「レイさん、やっぱスゲェ!」
「ただの積み木遊びしてるオジさんじゃないんだ」
「まぁ偶にはな」
ネイの奴はさっきトイレに行くと小走りに行ってしまった。この会場の込みようじゃまだ時間はかかるだろう。
オレのファンと思しき客と軽く雑談して時間を潰していると、スピーカーからアナウンスが流れて来た。
『LS杯スタッフ、Ball様及び本日の出場者なされていないロンギン・シープの皆さま、突然のことでございますが再考すべき議題があるためLS杯会場まで至急お集まりください。繰り返します――』
なんてこともない、ただのアナウンス。
しかし妙な胸騒ぎがする。
「なんかヤーな感じがするな……」
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