第11話
『最後はAR3人による制圧射撃で決着! 開始から12分、第1ラウンド終了です!!』
オレたちがやられたあと、予想通り残ってる奴らによるかくれんぼが行われ、第1試合は序盤のハイスピードな展開にグダッた幕を閉じた。
内容が内容だったため特筆すべき点は少なく、実になったことといえば全員の武器を把握できたくらいだろう。
『まずは腹の探り合いとしての第1試合。バルさんはどう見ますか?』
『そうですねー、みんな立ち回りも撃ちあいも上手くて全体的にレベル高いですよ。けどこの拮抗したパワーバランスが一部のチームによるワンサイドゲームにした、レイさんの開幕の行動のインパクトがヤバいですね』
『私もレイさんのあのキルは印象的でした。ちなみにバルさんは開幕あんな動きができることは……』
『知ってたら速攻で動画にしてますよ! あんな美味しいネタどんな実況者だって見逃すわけがない』
『ではやはりご本人に直接訪ねてみるしかないようですね。レイさんよろしいでしょうか?』
「あー……はい」
第1試合の総評をまとめた司会が会場中央からオレの方に歩いて来てマイクを差し出す。
『ズバリ、あの試合開始直後のキルは狙ったものなのでしょうか? 最初にキルされたホーセンさんもお仰るように、
単刀直入な質問。問うて然るべき疑い。
普段の配信活動や投稿する倫理観が欠場した内容の動画から「コイツならやりかねん」という、先入観を持たれているのを肌で感じる。
それらに気付かないフリをして、オレは顔バレ防止用のサングラスを押し上げて答えた。
「アレはただの〈壁抜き〉っすよ」
嘘偽りない真実を口にする。
「か、壁抜きですか……。ですがレイさんの位置からキルされたホーセンさんの直線状には大きな家が立っていまして」
「だからその家を壁抜きしたってこと」
「それが壁抜きじゃねぇのかよ!!」
司会の質疑に答えていると横から野太い男の怒鳴り声が横やりを入れてきた。
開幕でオレにやられた件のホーセンという男だ。
試合中から突っかかってきたこの男について、さっき思い出した。
コイツもまたeスポーツチーム、ロンギン・シープのメンバーだ。
部門こそBIではないがバトロワ系のFPS配信をしているキレ症と、敗けた時に行う機器をぶっ壊すんじゃないかと思わせる台パン芸で有名な奴。先ほど公式大会でも自慢の台パンを披露したことから、キャラではなく素でやってるらしい。物騒過ぎんか……。
「ほほほ、ホーセンさん落ち着いて」
「関係ない奴は黙れ!」
誰よりも先に動いたネイが隣の席から立ち上がり、ホーセンを宥めるが逆効果に終わり、怒鳴られたネイが委縮してしまう。
マジで炎上しそうだな。
SNSのトレンドを見たいという衝動を抑え、どうしたものかと考えること数秒。よし、予定通り過去の栄光に縋ろう。
「あの壁抜きはグリッチでもチートでもねぇ、ちゃんとしたスキルだって言ってるだろ」
声色を変え目の前の巨漢を見下すように腕を組んでふんぞり返る。
「今オレらがやってるナンバリングは
『だから理論上壁抜きはできる、と言われましてもどうやってホーセンさんの位置を……』
『初期リスの位置くらいならボクやレイさんと同じチームのネイタンでも把握してますよ』
司会の質問に答えたのはオレではなく解説のバルだった。
肩を竦めたバルの言葉を引き継ぐ。
「バル……さんもいってる通り、ある程度BIをやってるプレイヤー。それこそ観客席にいる人らもランクマッチとか回してたら覚えるよな?」
司会から渡されたマイクで観客席に問いかけると「知ってる知ってる」とか「ホーセンがエアプなだけだろ?」「なに丁寧な口調なんだよー」と有象無象の声が返ってきた。最後の奴やかましいわ。
が、あらかた欲しい言葉は拾えた。
あとは反論を封じる一手を加えるだけ。
「オレ、これでも世界獲るくらいにガチってた時もあったんでね。……当時のメンバーと馬鹿みたいに全部やったんだよ」
壁抜きポジ、グレポジ、イモポジ……調べられる所は全部調べた。
当然、世界には同じような馬鹿集団がいて、1試合目の初手キルなんかは対策されてたりして徒労に終わったことも多い。
配信サイトもWeTubeすらない、ガチの日陰ものが見る〈ワラ動〉時代はただ動画が配信できる、
「世界じゃ、こんなの当たり前って話だ」
反論はなかった。
元世界1位の威光も使えるもんだな。
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