第10話
第1ラウンドのマップは〈ロンリネスタウン〉。
8つの民家と所々に点在する廃車、中央に並べられた3台のバスが遮蔽物になる、比較的狭い。
BIシリーズでは初期から実装されており2チーム間での
シリーズごとに若干ビジュアルに変化が付けられていて、奇数シリーズなら地面が雪で覆われた冬を感じさせるものというのは定番の使用である。
もっとも、BⅧ《エイト》は偶数なので雪は敷き詰められていないが。
全員のリスポーンが完了したことでゲーム開始までの10カウントが行われる。
その僅かな時間を使いオレは隣で右手でマウスを掴み、左手をキーボードに置くネイと作戦の最終確認をする。
「オレたちの方針は?」
「勝つかどうかの戦いより、負けない戦い。ですよね」
「覚えてるなら良し」
これはポイント配分を事前を知った時から決めていたことだ。
敵を
他にも死んだ奴にある程度ダメージを与えておけば貰えるアシストポイントもあるが、人数の少ないオレたちでは真っ向から接敵すればまずどちらか1人は
まぁ、だからといってずっと逃げ回ってチマチマ稼いでトップ5に入る可能性は薄いだろうがな。
だからそのために拾えるポイントは確実に、だ。
『それでは第1ラウンドスター――』
ピッ! と簡素な音によって戦いの火蓋が切られた。
司会の男が待ってましたと言わんばかりにテンション高めの声でトークを始めようとした矢先、オレはマウスをグンッと大きく動かし2度キーボードを叩いた。
スタート位置から一歩も動いてない状態でオレの動かすアバターは得物である
刹那、グシャ! とBI特有の甲高いヘッドショット音が会場に響いた。
数瞬遅れて画面左上に流れるキルログ。
観客もプレイヤーも司会もバルすら何が起きたのか理解しようと頭を動かし、リアクションを放棄している。
「アホだろ」
あまりにわかりやすい動揺に思わず本音を零れてしまった。
場の大勢が立ち止まってる間にオレはコッキングモーションを終えたアバターを操作し、近くにある少し大きな石でジャンプしてもう1発。今度はヘッショではなかったが、弾丸は胸にあたったようで2人目の標的を絶命させた。
「どういうことだよ!?」
静まり返った会場の沈黙を破ったのはバンッ! と盛大な台パンをかまし立ち上がった隣の男の絶叫だった。
まさか撃ち抜かれたのがコイツだったとは。最初にですしたのがオレとネイを除く57人から隣の席の奴とは中々に凄い確率ではないだろうか。
頭の隅でそんな思考を弄んだオレは遅れて同じ家屋に入ってきたネイに指示を――。
「こんなのチートじゃねぇのかよ、おい!!」
飛ばそうとしたが喚く隣の男が突っかかってくる。
まだゲーム中の別チームのプレイヤーにちょっかい出すのはルール違反じゃないんですかねぇ。
チラッと一度目を隣の男に向ける。
瞬間、男の顔が薄暗い会場の中でもわかるくらいに紅潮を増したのがわかった。
やべっ。睨んだと思われたかも。
「審判! あんなのアリなのか!!」
『お、落ち着いて下さいホーセンさん。バルさん今のキルはどういう……ログを見る限りレイさんが開始10秒と経たず2人をキルしたようですが?』
『クハハハハッ、さすがレイさんスゲェ。いやぁ、ボクもあんなプレイ初めて見ました』
憤る隣の男ホーセン。
困惑し、だから
そして愉快に笑うバル。
会場は初っ端から混乱状態だった。
しかし、そんな時だからこそ
『アーッと! ここで各方面にしていち早く動き出したチームたちが、茫然としたプレイヤーたちを狩って狩って狩りまっている!!』
『そりゃそうですね。参加者のほとんどは撮影で元からBIをずっとやってる人なんだから。この大会に向けて
バルの解説通り、3つほどのチームが暴れまわっているようで先ほどからキルログが絶えない。
こうなってしまえばオレの最初の
幾ら5ラウンドあるからといって安定してポイントを取れる確証はない。大量キルができる奴がいれば、アシストポイントすら稼げない奴も出てくる。隣のホーセンという男の様に。
だから作戦は想定されるゲームの流れとこちらの目的を考慮して立てる必要がある。
「左奥のガレージに3人います! 3人ともえーっと、右向いているからそっちにもいうかも」
「おけ、1枚落としたらこっちも気付かれる。伏せて頭出すな」
「わかりました……あっ! 真正面の2階にも
「アレは無視。雑魚蹴散らしてポイント稼いでる奴にちょっかい出す必要はねぇ」
ネイの報告を受け、左奥の奥のガレージをスコープで覗く。たしかに3人が固まっているのが見えた。
それぞれ持っているのは
この距離ならSGは論外。SMGもカスタムはわからないが、この距離なら無視していい。であれば狙いは自ずと決まる。
マウスを動かしてレティクルが重なったタイミングで発射。
キルログの表示を以て結果が知らされる。
「退いて右のデカい廃車裏に移るぞ。索敵は任せる」
「はい!」
オレたちの目的は本戦出場……5位以上の入賞だ。
今求められる
――上位チームを避けて雑魚を掃討だ。
自分たちがある程度点を取ったあとは、他の奴らに点を取らせなければいい。
理想像はオレたちを含めた上位5チームで他のチームを狩りきる。5位までに入りたいなら上に上るのではなく、下の奴らを蹴落とせば良いってことだ。
この1試合目。ネイには
メイン武器は軽量なSMGの中でも特に小さなものに留め、メインで使っているのは倍率を自由に変更可能な〈スコープ〉と、相手の大まかな方角を確認できる〈
この2つに加えて投げ物対策の〈迎撃ターレット〉を装備した完全な補助型。
対するオレは1番威力と射程距離があるゴツイSRを担ぎ、防御力を固めた
「レイさん右の建物に1人……今消えました。遠くから抜かれたっぽいです」
「他に敵はいないよな。残りの人数は――」
アバターを安全な位置に潜ませ、生存者を確認すべくタブを開く。
やはり開幕のオレのキルが効いたのだろう。
まだ開始から10分と経っていないのに残りの人数が16しか残っていない。しかも
おそらくフルで残ってるパーティーは射線を切りつつ残党狩りを、勝ち目のなくなった奴らはタイムアップによる生存ポイント獲得を狙うはず。
これから10分間もかくれんぼどか公式大会がやったら燃えそうだな。
「んじゃ、攻めるか」
「はい! …………って、攻めるんですか!?」
「そう言っただろ」
返事しといて何故聞き返す?
司会とバルが常に話しているため注目はされにくいが、会場にはプレイヤー全員がいて作戦を盗み聞きされる可能性だってあるのだ。私語は極力抑えるのが当たり前。
だがそんなこと頭にないのかネイはガバッと顔を寄せ、唾がかかりそうな勢いで続ける。
「アタシたちは近中距離捨てるってレイさん言ってたじゃないですか!? 攻めても勝てませんよっ。というか、アタシのエイムの酷さ知ってますよね!!」
「なんで
「で、でも!」
「攻めはするが、別に真っ向からドンパチやろうってわけじゃねぇ。拾えるもんは広っとくって話だ」
言ってオレはタブを閉じた画面に今度は新たな
多くのバトロワ、FPSと同じくBIにも死んだプレイヤーの装備を拾ったり、装備の着脱が可能だ。
もちろん何の制限もなし好きな武器をいつでも自由に使えるわけじゃなく、拾った武器に限るが。
しかし今オレがやろうとしているのは武器の変更ではない。
新たに開いた窓の右半分には持っている銃と弾薬が表示され、左にはアバターの全体像と装甲。
オレはカーソルを動かし、およそ半分の防具を外して自分の足元に捨てた。
すると小太り気味だったアバターのビジュアルが幾分かスラッとする。数値的には防御力8割の低下。その代わり防御力を増やすために課せられていた〈鈍足〉と〈騒音〉のバッドステータスが消えていた。
「こっから1番近い敵はどこだ?」
「真正面の2つ奥の家にいます。1階か2階かはわからないけど」
プルスセンサーはGPSと同じく敵の位置を平面的に知れるが、立体的な観測はできない。それでも大まかな位置が把握できるというアドバンテージは馬鹿にならないものだ。
「よし、ここから
「グレネードですか?」
意図が伝わっていないような声色でオウム返しするネイ。
百聞は一見如かずともいう。説明するより実践した方が早いだろう。
移動を終えたオレは改めてネイにプルスセンサーで引き籠ってる奴の位置を問うた。
プルスセンサーの位置的にあの家なら……。
「ネイ、今オレのいる位置に伏せて前の2階覗いてみ」
「あ、はい。覗けました」
「じゃあそこから2階の電球目掛けてフラグ。2秒溜めて」
「電球でんきゅう……あった!」
言われた通りにネイは「……1……2」と小声で数え、フラグを投擲。
5秒ほど経ってから投げられたフラグがボンッ! と爆発。
1人のプレイヤーが
「え、ええ!? 当たった!? レイさんなんで隠れてる位置わかったんですか!?」
「説明はあと。早く残りも狩んねーと先越される」
そういった矢先だった。
「ひっ……!?」
「やべっ」
目の前に3人の
あまりに唐突な出来事にネイの方はホラゲーでもやってそうな悲鳴を零す。
『おおーっと! ここでチームネイレイがやられた!! 唯一2人パーティーのこのチーム、もう少しポイントを稼いでおきたかったか』
『いやぁ、生存ポイントこそ取れなかったけどコレ……レイさんの思惑通りのような気がボクはしますね』
『と、いいますと?』
『ほら見てください。残ってるチームを――』
などと司会と解説が残ってる連中の今後の動向についての考察を進めていく。
やられたオレとネイのディスプレイは真っ赤に染まり〈YOU DEAD〉の文字の表記が出ていた。数秒経って文字は消え待機ルームに戻るか、あるいは生存プレイヤーの視点を見るかの選択を迫られる。
運営からはこの選択はどっちでもいいと言われているが。
「び、ビックリした……」
「ありゃ仕方ねーけど、驚いて何もしないってことはないようにな」
「……ごめんなさい」
キルすることに夢中になって索敵が甘くなっていた。
オレも気付けなかったからネイへの注意は最低限に、オレは自身が座するゲーミングチェアにめいっぱい背中を預けて伸びをした
「まぁ初戦でこんなけ出来たら上出来だろ」
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