四(2/2)
ドンドンドンドンドン!
ガン! ガン!
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!
それはまるで、玄関に暴行を加えているような音だった。
そして開かないドアノブを無理矢理回そうとしているかのような音。
「……っ!」
私は口から飛び出しかけた悲鳴を寸前で押し殺し、玄関に向けて踏み出しかけていた足を止めた。
……違う、お母さんじゃない。
自分の家に入るのにこんなことしない。
鍵を忘れたのならインターホンを鳴らすか私のスマホに連絡するかすればいいだけの話。
今、玄関の向こうにいるのは……お母さんじゃない。
誰?
誰だったとしても、人の家のドアに暴力を振るうような人間が、話の通じるような相手だとは思えない。
外にいる誰かはこちらに声を掛けるようなこともせず、インターホンを鳴らすこともせず、ただ玄関扉を執拗に叩きまくっているだけ。……それはもう、病的なほどに。
気付けば私の膝はガクガクと震えていた。
次の瞬間には腰が砕ける。
ペタンと腰が床に落ちた。
埒外の恐怖。
それが玄関の向こうから漂ってきて、私の全身にまとわりつく。
何か、身を守れそうなもの――。
何でもいい。
私は震える膝で何とか這って台所まで行って、包丁を手に玄関に向き直った。
そんな私の敵意に反応したかのように、ドアを叩く音が、そのけたたましさを増す。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!
施錠してあるはずのドアがその効果をなくすのも時間の問題で、向こうにいるものが今にも姿を現しそうだった。
私にできるのは、包丁を両手で構え、その瞬間を待つことだけだった。
しかし、ピタッ……と。
唐突に、私の恐怖心を煽っていた奇怪な音が止んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ふいに静寂が訪れる。
けたたましい騒音が止んだことでようやく、私は自分の息が乱れていることに気付いた。ただじっと身構えていただけなのに、まるで長距離マラソンでも走ったかのよう。
私は呼吸を整えるのも後回しにして、玄関扉を注視する。
どうして急に音が止んだ?
これから私はどうしればいい?
玄関の向こうを確認するべきか、それともこのまま何もなかったことにするべきか。
未だ恐怖で思考が錯乱しているせいで考えがまとまらない。
とりあえず立ち上がろうと、まだ微かに震える膝を立てたときだった。
ガチャガチャ――
「!」
再びの怪音に、私の体は立ち上がりかけた体勢のまま硬直してしまう。
そして次の瞬間――。
カチャン――。
それは掛けておいたはずの鍵が開錠された音に思えた。
このままでは、ドアを叩き散らしていた何者がが
だというのに、恐怖にまみれた私の体は「逃げろ」という脳の信号を受け付けることなく、微動だにしてくれなかった。
やがて四角くぽっかりと開いた玄関の向こうに、その人物が姿を見せた。
「わっ、優衣!? 何やってんの!? 包丁なんか持って!?」
母だった。
仕事から帰宅した、お母さんだった。
「はああぁ~~~……」
それを脳が認識した途端、私は再び腰を抜かす。
今度は安堵の意味で。
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