一
母の運転する軽トラに揺られること三十分ほど、ようやく目的地にたどり着いた。
周囲には民家が立ち並ぶ閑静な住宅地。その一画にひっそりと、私たちの新居、民営の三階建てアパートは佇んでいた。
その鉄筋造りの賃貸住宅の目の前には住人たちが使用する駐車場があり、その脇にはこじんまりと駐輪場も設えられている。駐輪場のほうは好きに使えるらしいけれど、駐車場の方はお金を取られるらしい。これから母と二人だけで暮らしていかなきゃならないことを考えると、少しばかり気の滅入る出費だった。私も近い内にバイトでも探したほうがいいかもしれない。
そして特筆すべきなのは、駐車場の前の車道を挟んだ先にある、こじんまりとした公園。
どこにでもあるような最低限の遊具とキャッチボールができるくらいの広場しかないけれど、四方の隅に植えられた樹木に囲まれていて、なかなか
私たち
――ただ。
「
先に車を降りていた母が、まだ車内にいた私を急かす。
夏真っ只中のこの季節、外は灼熱の地獄。正直言って地面に足を下ろしたくはない。とはいえ、いつまでもここでこうしているわけにもいかず、私は渋々、げんなりとした気持ちを奮い立たせて軽トラを降りた。
途端、空からこれでもかと降り注いでくる紫外線が肌を焼き、大して体を動かしているわけでもないのにじわじわと汗が滲み出てくるのがわかる。加えて蝉の鳴き声が
私は目の上に手で
そんな軍事攻撃を受ける中で、運んできた家財の荷降ろしを今からしないといけないわけだ。
アパート三階の新居まで、女二人で。
「もう、何で新居こんなところにしたの……」
「は!? 下見に来たとき結構気に入ってたじゃん! ほら、奥のほうに入れるものから運ぶよ!」
車内にいたときに抱いた感慨もどこへやら、打って変わって不平を漏らした私に、母は腰に手を当てて憤慨した。
あまり多くないとはいえ、私たち二人が生活できるだけの家財を三階まで運び入れるとなれば別の話。男手が欲しいところだけど、声を掛けた親戚はみんな忙しくて来れないらしい。
夏休みなのにおかしくない? と思うけれど、ないものをねだっても仕方がないので、渋々母と二人で運ぶことにする。
それでも
「俺で良ければ手伝いましょうか?」
そんな救いの声が降って湧いてきた。
振り返ったその場所にいたのは、私と同年代くらいの男の子。願って止まなかった男手。
母は作り慣れた愛想笑いと見え見えの社交辞令で二度ほど断って見せてから、結局はその申し出を受け入れた。
その社交辞令で本当にこの人が手を引いてしまったらどうするんだと、私は気が気じゃなかった。
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