第24話ピンチと覚醒

「慧、慧、大丈夫⁉︎」


 倒れた慧に鈴華は叫ぶ。慧は、少し身じろぎして、言った。


「命に別状は無さそうだけど、力が大幅に失われて、立つことも難しい。さっきのは呪いの類の魔法か。」


「そんなこと考えている場合じゃ……」


 そこで鈴華は考えを改める。慧が何とかしてくれるという考えは捨てるべきだと。

戦うのは自分だ。


 幸い、慧に呪いをかけた人物は消えている。敵はヒュージベアーだけ。


 鈴華はヒュージベアーに戦いを挑んだ。


 だけど——鈴華の動きは著しく悪かった。


ヒュージベアーのオーラが、殺気が、そして何よりトラウマが鈴華を締め付けていた。それに、ヒュージベアーの能力値は平常の鈴華のそれを大幅に上回っていた。


 結果、『魔力装束』をもってしても、鈴華の攻撃は当たらず、ヒュージベアーの攻撃は避けきれない——かろうじて致命傷は免れているものの、一方的な戦いが続いて行った。


それでも鈴華は数十分粘っていたが、ついに鈴華は耐えきれなくなり、大きな隙を晒す彼女へヒュージベアーの攻撃が襲いかかる。


時が過ぎるのがどこまでも遅い。


その中で、戦いの恩恵がある鈴華は悟ってしまった——回避のしようが無いと。


 鈴華の頭に様々な思いが駆け巡る。


 あー、これでお母さんの所に行ける。


 でも、この世界で頑張るって決めたのに。


 それに、慧になんの恩返しも出来ていない。


 というか、わたしを庇ったせいで、慧も死んでしまう。


 こんな事ならあの時死んでしまえば良かったと思ってしまう。


 ああ、全くひどい人生だったな。


 ——そして鈴華の頬に涙が伝ったその時だった。


 ガイーン!


 ヒュージベアーの攻撃が何かに遮られたのだ。


「鈴華!それは僕の障壁魔法だ。長くは持たない。だから、僕の話を良く聞いてくれ。」


 慧だった。私に叫ぶようにして話す。きっと、私の思いもつかない方法でまた、助けてくれたのだろう。


「鈴華、君にはきっとヒュージベアーが、恐ろしく、巨大な存在に見えているだろう。実際にそうだ。あれは君より速い、君より力が強い、君より堅い。——だけど、君よりも、あのヒュージベアーよりも強い僕が断言しよう。」


 慧は鈴華を真っ直ぐ見て告げる。


「君の方が強い。」


 慧は続ける。


「君なら勝てる。あれをよく見てみろ!本当に恐るるに足る存在か?あれだったら、模擬戦の時の僕の方が、その僕と互角にやり合っていた君の方が強い。今までやってきたことを思い出せ!僕はあれへの勝ち方を教えたぞ!」


 そして、覚悟が決まった鈴華に、最後の言葉をかけて送り出す。


「さあ、鈴華!全てを出し切り、敵を倒せ‼︎」


 慧の言葉が鈴華を突き動かす。


「任せて!」


 鈴華にとって、慧は憧れであり、最も信頼を置いている人物である。


その慧が、自分の勝利を保証した。それは、鈴華の自信に繋がる。それを胸に鈴華は、恐怖も、殺気も、トラウマも乗り越える。


 鈴華の体はもう、重くは無かった。もう、負ける気はしなかった。

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